152. 2024年 初冬
　　　　12月　　街ビルが消えゆく 　　雪の街・雪の野 　　水の都のカナレット
　151. 2024年 秋
　　　　11月　　雁来たる 　　紅葉の母 　　座頭石の晩秋
　　　　10月　　志賀坊森林公園の初秋 　　裏山の裏の山から 　　峠の紅葉
　　　　９月　　津軽の北端 　　池と林の入口 　　老舗の名曲喫茶
　150. 2024年 夏
　　　　８月　　風が逢う岬 　　川の池－夏
　　　　７月　　岩木山の東麓 　　身近な溜池群 　　道連れ
　　　　６月　　志賀坊の自然林にて 　　砂蟹 　　里山の西風の蝶
　149. 2024年 春
　　　　５月　　津軽白神湖の春 　　階上岳 　　飛馬林檎の丘
　　　　４月　　光風の漂い 　　白岩の命たち
　　　　３月　　残雪の野の夕べ 　　義父のお寺 　　冬鳥たちは去り
　148. 2024年 冬
　　　　２月　　暖冬の池めぐり 　　ミニかまくら
　　　　１月　　明けも 何が 　　ピアノの音色 　　ウクライナがここにも

　147. 2023年 初冬
　　　１２月　　七つのため池―巡礼 　 おじいちゃんが逝く
　146. 2023年 秋
　　　１１月　　葉むれ黄紅と 　 埋めて 逝くか
　　　１０月　　街中の林径 　 中秋の岩木山 　 白鳥の夕暮れ
　　　　９月　　鳥―３つの場へ 　 Ｆ・ブリッジとリンドウ 　 畦と小川詩歌句 二題
　145. 2023年 夏
　　　　８月　　パーソナル・コンピュータ 　　峰とおく―南八甲田 　　畦径と川岸
　　　　７月　　生家の山 　　赤い沢 　　夏の海辺のある日―蝶と花鳥
　　　　６月　　千鳥と百合 　　梅笠草と朱鷺草 　　森吉山―花散歩 　　海も近し
　144. 2023年 春
　　　　５月　　眺望と凝視 　　　高松の池 　　　晩春－蘭から蘭へ
　　　　４月　　花の園 　　　ノビタキと野の花園 　　　河原の菜の花の道
　　　　３月　　帰国とは 　　　小白鳥と雁わたり 　　　自家用車
　143. 2023年 冬
　　　　２月　　冬の家と野 　　　ヒトデ 　　　オーディオ・ルーム
　　　　１月　　白い流れ 　　　白銀の久渡寺

　142. 2022年 初冬
　　　１２月　　３Ｂの音楽 　　　師走の日本海 　　　村の平川にて
　141. 2022年 秋
　　　　９月　　お山の鳥海山 　　モッコ岳ふたたび 　　源五郎モドキ 続
　　　１０月　　ナメクジの詩 　　須川温泉と栗駒山 　　シエカよ、はや晩秋となり
　　　１１月　　座頭石にて再び 　　津軽富士見湖と雁 　　津軽富士見湖と翌朝
　140. 2022年 夏
　　　　６月　　小渓流 　　ハマウツボを探し 　　水ぎわの流離
　　　　７月　　不可知に包まれ 　　里山の人々 　　行くも海山は隔て
　　　　８月　　子熊 　　盛岡も熊 　　雨の八月
　139. 2022年 春　９編
　　　　３月　　コクガン 　　ハクガン 　　サーフィン
　　　　４月　　二つの桜公園 　　ヒメギフチョウ再び 　　イソスミレ
　　　　５月　　桜草 　　源五郎モドキ 　　山芍薬へゆく
　138. 2022年 冬　６編
　　　　１月　　オオワシ 　　冬の十三湖の突堤 　　漁港の冬
　　　　２月　　温泉街の鈴鴨 　　シノリガモ 　　ミコアイサ

　137. 2021年 初冬（12月）　未発表の３編
　　　　初冬のお濠 　　　海 　　　すべて秘し
　136. 2021年 秋 一読いただいた未発表の自省の詩２編
　　　　智恵の滝 　　　晩秋の悲歌
　135. 2021年 秋（9～11月）の未発表の謹呈詩・献呈詩６編
　　　　半島の西の海辺－初秋 　　ハッチョウトンボのメス 　　秋のリンドウ科 三題
　　　　鋳釜崎 　　カイツブリ 　　座頭石にて
　134. 冬鳥たちの飛来　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞ 第89回　2021.11
　133. 湿原の夏　　　　　　　『青森県詩集 青森2021』　　　　2021.10
　132. 三つの鳥の詩　　　　　『風』130号　　　　　　　　　　2021.9
　　　　　春の彩に乗って　オオルリ　岩団扇と駒鳥
　131．2021年 １月から夏までの未発表の詩16編
　　夏（６～８月）…初夏のある日に　紫陽花が咲く頃　蝶蜻蛉　熊
　　　　　謹呈詩：淋しき海へ　ムカシヤンマ　晩夏の海辺
　　　　　(八幡平での３編「八幡平にて　三つの詩」『風』131号へ予定)
　　春（３～５月）…シロハラという鳥　三月遅めのお濠　
　　　　　謹呈詩：群翔へ　青い春の調べ
　　冬（１・２月）…水平線遥か　真冬の岩棚海岸　雪間の日本海
　　　　　　　　　　二月初めの弘前公園　疑問
　130. 蝶の道　　　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第88回　2021.8
　129. 調整という名の池　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第87回　2021.5
　128. 冬の海辺にて　三つの詩　　　　『風』129号　　　　　　　　　　 2021.5
　　　　　小泊の冬　冬の風合瀬 　冬の森山海岸
　127. 冬の風合瀬（写真付）　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第86回　2021.2
　126. 自室の真冬　　　　 　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第86回　2021.2
　125. 詩詠み　　　　 　　　　 献呈詩（写真付）（2020年作）　　　　　2021.2
　124. 海辺のそよ風　　　 　 　献呈詩５編（2020年作）　　　　　　　　2021.2
　　　　　権現崎　 七ツ滝　 浜の花布　 海の蘭　 風合瀬の海光り
　123. 一読いただいた詩９編（2020年の未発表詩）　　　　　　　　　　　2021.1
　　　　　姫岐阜蝶　 ルリビタキ　 姫布袋蘭　 岩団扇　 蝦夷立金花　 奥蝦夷細辛
　　　　　夏と秋のすきま　 わが嘆き　 観音が如来に　 小詩二編
　122. 八丁蜻蛉と鷺草　　　　 『風』128号　　　　　　　　　　　　　　2021.1
　121. 大山鷺草　　　　　　　 『風』128号　　　　　　　　　　　　　　2021.1

　120. 矢立峠　　　　　　　　 『青森県詩集 青森2020』　　　　　　　　2020.10
　119. アサギマダラ　　　　　 『風』127号　　　　　　　　　　　　　　2020.8
　118. 海辺の青い鳥　　　　　　陸奥新報 詩の窓 462　　　　　　　　　 2020.7
　117. 冬の星々が闇に消え　　 『風』126号　　　　　　　　　　　　　　2020.4
　116. 黄連雀　　　　　　　　 『風』126号　　　　　　　　　　　　　　2020.4
　115. 座頭の岩　　　　　　　　弘前ペンクラブニュース　第74号回　　　2020.3
　114. 風光主義　　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第85回　2020.2
　113. 星は遠くとも　　　　　　青森県詩集 青森2019』　　　　　　　　 2019.11
　112. ７つの不思議　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第84回　2019.11
　111. もう行くことはなく　　 『風』125号　　　　　　　　　　　　　　2019.10
　110. 紋白蝶の詩　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第83回　2019. 8
　109. 花笑う　　　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第82回　2019. 5
　108. 白い太陽　　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第81回　2019. 2
　107. 雪と生き　　　　　　　　陸奥新報 詩の窓 422　　　　　　　　　 2018.12
　106. 雲上の園　　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第80回　2018.11
　105. 高原の水の精たち　　　 『青森県詩集 青森2018』　　　　　　　　2018.11
　104. 木道の風－田代湿原にて　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第79回　2018. 8
　103. 春まんだら　　　　　　 『あおもり文芸さろん』No.5　　　　　　 2018. 7
　102. 春まだき　　　　　　　 『風』122号　　　　　　　　　　　　　　2018. 5
　101. 雑木林の丘　　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第78回　2018. 5
　100. 八幡様と小鳥たち－冬－　県詩連詩集『岬』第九集　　　　　　　 2018. 5
　99. 月食と雪蛍　　 　　　　短歌倶楽部☆すばる☆ 一周年記念誌　　 2018. 3
　98. 冬ともに震え　　 　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第77回　2018. 2
　97. 冬の水脈　　 　　　　　東奥日報 あおもり 現代詩ギャラリー44　2018. 1
　96. 春ざかりの林　　　　　『風』121号　　　　　　　　　　　　　　2017.11
　95. ため池の夏　　　　　　 青森県詩集『青森17』　　　　　 　　　 2017.11
　94. 石の伝説　　　　　　 　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第76回　2017.11
　93. ダム湖畔－虫と鳥　　 　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第75回　2017. 8
　92. 夏津軽　　 　　　　　　第６回 鏡が丘「よこの会」で朗読　　　 2017. 8
　91. 春遠く　　 　　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第74回　2017. 5
　90. このあの世　　　　　　『風』120号　　　　　　　　　　　　　　2017. 3
　89. 雪下ろし　　 　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第73回　2017. 2
　88. 木守りんご　　 　　　　陸奥新報 詩の窓 375　　　　　　　　　 2017. 2
　87. こころ色の花たち　　 　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第72回　2016.11
　86. 太宰にもの思われ　　　 青森県詩集『青森16』　　　　　 　　　 2016.11
　85. イトトンボの詩　　 　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第71回　2016. 8
　84. 小森林－過去が今　　 　弘前ペンクラブニュース 第63号　　　　 2016. 7
　83. 春が春を呼ぶ　　 　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第70回　2016. 5
　82. 女流詩人　　 　　　　　自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第69回　2016. 2
　81. わが村の川 初冬　　　 『風』118号　　　　　　　　　　　　　　2016. 2
　80. 冬の浅瀬石川　　 　　　東奥日報 詩のひととき㉞　 2016.2.19
　79. 確かなものを求めて　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第68回　2015.11
　78. この街に、この街を　　 陸奥新報 詩の窓 345　　　 2015.11
　77. 虫たちの歌　　　　　　『青森県詩集』15　　　　　 2015.11
　76. 石の風　　　　　　　　『風』117号　　　　　　　　2015.10
　75. 山径で　　　　　　　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第67回　2015. 8
　74. 昔日の木魂　　　　　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第66回　2015. 5
　73. 石碑の時の刻み　　　　『岬』第八集　　　　　　　 2015. 5
　72. 冬の月光　　　　　　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第65回　2015. 2
　71. 冬芽たち　　　　　　　『風』114号　　　　　　　　2015. 1
　70. ヴォイス（声）　　　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第64回　2014.11
　69. 林と陽光　　　　　　　『青森県詩集』14　　　　　 2014.11
　68. お城の鷹揚園　　　　　 陸奥新報 詩の窓317　　　　2014.10
　67. 命の白影　　　　　　　『風』113号　　　　　　　　2014. 9
　66. 暮れゆく季節　　　　　 自作詩朗読の午後＜麗日の会＞　第63回　2014.8
　65. 初夏へ　　　　　　　　『風』112号　　　　　　　　2014. 6
　64. 冬曇りの日　　　　　　『風』111号　　　　　　　　2014. 3
　63. くすんだ日々　　　　　『風』110号　　編集後記　　2013.12
　62. 街に美術館の夢　　　 　陸奥新報 詩の窓 295　　　 2013.12
　61. 蝶の幻色　　　　　　　『青森県詩集』13　　　　　 2013.11
　60. 岩木山にて　　　　　　『風』109号　　編集後記　　2013. 9
　59. 詩碑のある丘にて　　　『風』108号　　編集後記　　2013. 6
　58. 集団即興朗読　　　　　『岬』第七集　　　　　　　 2013. 5
　57. 黒天使の息　　　　　　『風』107号　　編集後記　　2013. 3
　56. 崇高の光　　 　　　　　弘前ペンクラブニュース 第53号　　 2013. 3
　55. 月日の鼠　　　　 　　　陸奥新報 詩の窓274　　　　2013. 2
　54. ナナカマド　　　　　　『風』106号　　編集後記　　2012.12
　53. 消えゆく文字列　　　　『青森県詩集』12　　　　　 2012.11
　52. 小さな林檎畑　　　　　『風』105号　　編集後記　　2012.10
　51. 時間の庭　　　　　　　『風』104号　　編集後記　　2012. 6
　50. 花炭　　　　　　 　　　陸奥新報　　　　　　　　　2012. 4
　49. 乖離した両眼　　　　　『風』103号　　　　　　　　2012. 1
　48. 独立峰　　　　　　　　『青森県詩集』11　　　　　 2011.11
　47. 不透明な光　　　　　　『風』102号　　　　　　　　2011.11
　46. 弔事の切手を貼り　　　 陸奥新報 　　　　　　　　 2011. 9c
　45. 遠近　　　　　　　　　『風』101号　　　　　　　　2011. 7
　44. ？　　　　　　　　　　『岬』第六集　　　　　　　 2011. 5
　43. 銀河雪　　　　　　　　 弘前ペンクラブ　　　　 　 2011. 3
　42. ？　　　　　　　　　　『青森県詩集』10　　　　　 2010.11
　41. 雲上の人びと　　　　　『風』100号　　　　　　　　2010. 8
　40. 小さな流離　　 　　　　陸奥新報 詩の窓202　　　　2010. 4
　39. 不安定な内なる四大　　『風』99号　　　　　　　　 2010. 3
　38. ？　　　　　　　　　　『青森県詩集』09　　　　　 2009.11
　37. シエカよ　　　 　　　　陸奥新報 詩の窓181　　　　2009. 6
　36. 反復の死　　　　　　　『風』97号　　　　　　　　 2009. 6
　35. ある肖像　　　　　　　『岬』第五集　　　　　　　 2009. 5
　34. 四態　　　　　　　　　『風』96号　　　　　　　　 2009. 2
　33. ？　　　　　　　　　　『青森県詩集』08　　　　　 2008.11
　32. 万年浪人生　　　　　　『風』94号　　　　　　　　 2008. 7
　31. 異空間の輝き　　　　　『風』93号　　　　　　　　 2008. 1
　30. ？　　　　　　　　　　『青森県詩集』07　　　　　 2007.11
　29. 白い満月　　　　　　　『風』92号　　　　　　　　 2007.10
　28. 位相空間－葛西克雄絵画展より－『風』91号　　　　 2007. 7
　27. 時のふくらみ　　　　　『岬』第四集　　　　　　　 2007. 5
　26. 直線回帰　　　　　　　『風』90号　　　　　　　　 2007. 3
　25. 世界は傾いて動いている 陸奥新報 詩の窓120　　　　2006.12
　24. 残光　　　　　　　　　『Meros 』80号　　　　　　 2006.12
　23. 宇宙の空　　　　　　　『風』89号　　　　　　　　 2006.11
　22. 背の温もり　　　　 　　陸奥新報 詩の窓82　　　　 2005.11
　21. 休日の土曜日　　　　　『青森県詩集』06　　　　　 2006.11
　20. 無の風　　　　　　　　『風』87号　　　　　　　　 2005. 6
　19. 風の花　　　　 　　　　陸奥新報 詩の窓51　　　　 2005. 4
　18. アンニュイ　　　　　　『風』86号　　　　　　　　 2005. 1
　17. 朝も夕映え　　　　　　『Meros 』76号　　　　　　 2005. 1
　16. 子守歌　　　　　　　 　陸奥新報 　　　　　　　　 2004. 9
　15. 単性生物　　　　　　　『風』85号　　　　　　　　 2004. 8
　14. ？　　　　　　　　　　『Meros 』75号　　　　　　 2004. 7
　13. 露色の雲気　　　　　　『風』84号　　　　　　　　 2004. 2
　12. 冬の木　　　　　　　　『Meros 』74号　　　　　　 2004. 1
　11. 反誕生　　　　　　　　『青森県詩集』03　　　　　 2003.11
　10. 罠　　　　　　　　　　『岬』第三集　　　　　　　 2003.10
　 9. 露色の雲気　　　　　　『風』83号　　　　　　　　 2003.10
　 8. カエルの詩　　　　　　『Meros 』73号　　　　　　 2003. 7
　 7. 凍った空間　　　　　　『風』82号　　　　　　　　 2003. 5
　 6. こぼれた音　　　　　　『Meros 』72号　　　　　　 2003. 1
　 5. 霧の中　　　　　　　　『風』81号　　　　　　　　 2002.12
　 4. はがゆく　　　　　　　『青森県詩集』02　　　　　 2002.12
　 3. 深い宵　　　　　　　　『岬』第二集　　　　　　　 2002.11
　 2. 頂きと峠　　　　　　　『Meros 』71号　　　　　　 2002. 7
　 1. 古く中途半端でも　　　『Meros 』70号　　　　　　 2002. 2
　　『文芸あおもり』『北の街』各１編、陸奥新報数編 他
　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』110号
　　　　　くすんだ日々


なまじい山際に鈍色の空
家々の庭は枯れ草に裸木が空かす
人気ない道に枯葉だけそよぎ

　中流階級が減り下流がどっと増え
　政権議員は選ばれた身分を忘れ
　揚々と格好つけそっぽを向く
　そんな政治屋の浅薄に思える施策に
　せっかくの生の時間を奪われ

　原発推進と軍事力強化のさなか
　遺伝子組み換え食品の輸入も促進
　自党に有利な選挙の仕組みで
　民意に反して議会は次々と強行採決
　秘密保護法は科学者も反対なのに
　誰のための政治なのだろう

　春から年収三百万の半分ほどで
　細々と黙ってただ生きよと
　癌を見舞いながら温泉宿で句会
　誰も世に触れず黙々と筆を動かす

酒場の巷は車まぶしく人影まばら
わずかに文化施設や教会で楽音が響き
小さな店で調べの集いの灯が揺れる

	詩 　　人生（十一）　鰺ヶ沢　　　　　　　　　加 藤 忠 昌……… 1 　　ほろびゆく秋　　　　　　　　　　　　　岡本 としゑ……… 3 　　もう少しだけ元気でいたい　　　　　　　山 本 志 恵……… 5 　　雪の形　　　　　　　　　　　　　　　　一 戸 れ い……… 7 　　道端にさいていた名も知らぬ花　　　　　一 戸 れ い……… 9 　　蜻蛉　　　　　　　　　　　　　　　　　金 子 勇 男……… 11 　　くすんだ日々　　　　　　　　　　　　　瀬 川 紀 雄……… 13 　　龍飛岬　　　　　　　　　　　　　　　　桜庭 恵美子……… 15 　エッセイ 　　詩の方法論的序説Ⅱ『祝祭―詩における主題と方法―』 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　郷 よしゆき……… 17
	寄贈誌等御礼 109号 　○ 詩とエッセイ「千年樹」第56号　　　 岡耕秋（諫早市） 　○ 詩誌「ゆすりか」98号　　　　　　　 ゆすりか社（諏訪市） 　○ 詩とエッセイ「焔」第97号　　　　　 福田正夫詩の会（横浜市） 　○ 詩誌「ホルス」第２号　　　　　　　 末原正彦（君津市） 　○ 季刊詩誌「舟」153　　　　　　　　　レアリテの会（滝沢村） 　○ 詩誌「胴乱」第84号　　　　　　　　 胴乱詩社（青森市） 　○ 詩誌「朔」176号　　　　　　　　　　朔社（八戸市） 　○ 詩誌「エディデヤ」3号　　　　　　　自作詩を朗読する会（青森市） 　○ 詩と散文「飾画」No.97　　　　　　　飾画の会（弘前市） 　○ 詩誌「亜土」第二次第92号　　　　　《亜土》詩会（弘前市） 受贈詩集御礼 　○ 遺稿詩集『ある女』　大石良江　　　 　待望社 　○詩集『芭蕉　古の叙事詩』 山口敦子　 　土曜美術社 　○ 仁科源一詩集『漂遊の谺』　　　　　 　編集工房ノア 　○『弘前の詩人 小笠原茂介氏の九つの詩集をめぐって』 　　　　 　　　　　　　　類家有二　　　 　私家版 　○［詩朗読ＤＶＤ］ 　　　　第九詩集『青池幻想』小笠原茂介　　思潮社 　○ 詩集『地霊頌』 内海康成　　　　　　　土曜美術社
	編集後記 109号 ● 詩誌「千年樹」の同人に木村淳子氏がおられるのに気づく。日本詩人クラブの例会で氏の講演「ホロコーストの詩人ロッテ・クラマー」を拝聴できた。クラマー訳詩集を刊行されており、興味津々。優しい話し方でお人柄が窺える講演だった。 　なお、例会の始めに会長の細野豊氏より、前夜の特定秘密保護法の強行採決に対する、クラブ理事会の反対声明の決議が報告され、参席者に賛同の意を求められた。会場は賛同の声と盛大な拍手に包まれた。 ● 仁科源一氏の詩集『漂遊の谺』は、これまで刊行した四つの詩集をも含めた合本詩集。第三、四詩集は仁科氏からご恵贈いただき拝読できていたが、本詩集で初期の二作品を読むことができ、感慨深かった。全編凝縮された簡潔な詩行で、言い得ぬ詩的光景を生み出している。氏の長い詩歴と詩活動に感銘する。 ● 詩と散文「飾画」の四人の詩は濃い内容の詩ばかり。特に代表の内海康也氏の「愛―崩壊するメモリアルな夏の」の造語も多いと思われる詩的な表現は、相変わらず文学的芳香が漲っている。「破綻調の哀歌を編み／愛語を紙の碑に刻み｜漂泊の魂たちがホバリングして涙腺ゆるみ／かすむ天末線のかなた／雲に乗った化生たちもさすらう」。選りすぐられた一つの詩句に多重の意味を含蓄させ、実に味わい深く、余薫に包まれたまま創作心を澎湃とさせられる。 ● 私事になりますが、郷土の文学活動を少しでも学べればと、高木恭造の碑前祭、石坂洋次郎を偲ぶ会、太宰治まなびの家の幾つかのイベントに参加。更に久々に県都まで足を伸ばし、同人の岡本さんと桜庭さんがおる県詩祭、三市ペンクラブへも。また、同人の金子さんのご長女が弘前の「英国貴族の館」でフルート・コンサートを開催され、郷さんとの三人で近況報告を兼ね茶話会を行いました。 　以上、謝意を込めブログやfacebookなどで紹介させていただいております。これも一抹の詩活動かもしれないと思い…　　（瀬川）

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 陸奥新報 詩の窓295
　　　　　街に美術館の夢


シエカの風を街なかで追い
季節の笑顔とともに
生かされ　生きてきた
ひとの愛と創造の喜びにあふれ
街路に生きる光りを享(う)けてきた
学都、文化都市といわれ
街はそう育んできた

だが今や　すぼみゆく古都か
　東北の県庁所在地を除き
　四番目に人口が多いのに
美術館がない
　県都に四館、八戸に常設展も
　十和田や五所川原、七戸にも
だが　街に美術館がない
　奈良岡征夫や工藤甲人がいる
　企画に多くの画家たちと作品
　彫刻、現代美術、工芸、書道
　なんと豊饒なことだろう
だが　美術館がない

詩歌の調べは空に散り
絵は雨に流れゆく
とどまれる館を夢想し
去りゆくシエカの風を追う

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『青森県詩集』13
　　　　　蝶の幻色


コムラサキを撮ってくる、と言って男は出かけた
最後の集落で舗装は切れる
林道の入口に熊注意と車両通行禁止の看板
すぐ道は山に挟まれ川が沿う
わずか青空を開けた川原に風がそよぐ

大きなミヤマカワトンボが蝶のように舞う
オスは青みがかった金属光沢を輝かせ
そのすぐ上流の水際の大きな石に何気なくメス
翅の濃い褐色の帯がくっきり白い紋が光る

だいだい色のアカシジミ数匹か弱く飛んでいる
孵化したばかりは何が近づこうと葉柄に静止
白帯で縁取られた黄褐色の帯と黒い尾状突起
やがて樹頂で縄張りを張るのだろう

ミドリヒョウモンがテリトリーを舞う
閉翅すると下翅が緑っぽく白い縦帯が走る
　　 コムラサキがやってくると追い回す

コムラキは木の葉に逃げては傍らの石原に
男は息を呑み　川原の石と化す
頭の向きを変え翅を上下しては紫の幻色を変える
上下左右に現れ　しばし両上翅に見事に浮かぶ

シータテハが来るとミドリヒョウモンが追い回す
途中でコムラサキの方に気を取られているすきに
安堵して裏翅にＣの字の白紋をひけらかす

数度コミスズが花を探りながらよぎっていき
水際にオタマジャクシが泳ぎめく
下方に赤っぽい蛇が日向ぼっこ
カワセミの番が沢に沿って飛翔していく
男はどれだけ居ただろう　上がると浦島太郎

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』109号
　　　　　岩木山にて


麓の温泉から夏休みの倅二人と登る
明るい山径に蝶たちが迎え逃げ
帰りにとレンズを向けずひたすら登る

幹周りを次第に細める長い山毛欅林
にわかに晩夏の雨が襲う
白雨のような群れた急雨
驟雨ではない傘をさし三十分も立ち止り
太い枝がボキッと折れボタッと落ちる音
止むと林立する濃淡の樹幹の間に霧が漂い
遠くが白み竹林の幻想に胡蝶の夢

樹雨の音を遠くに近くに登山道を狭め
勾配を増し岳樺林の脇の葉群に肩を濡らし
喘ぎながら急登の根曲竹に腿を湿らせ
尾根の微風と高嶺の花たちの玲瓏

二ケ所の長い急な岩場に息を切らし
足腰の筋肉は疲れ何度も立ち休み
流れる雲の中わずかに山麓を望み
六十二歳の誕生日に山頂に立つ

下山するにつれガスが昇っていき
展望が明瞭にひろがってくる
岩場の足下に一輪の深山金梅
蝶を追いながら孔雀蝶に会えぬまま
灌木へ下る前に山頂の方を振り向くと
天(さ)照(ば)雨(え)に洗われた紺青の空

湯煙に隣の男の刺青の蝶が舞い
シューズを履いても湯上りに清爽な風
胡蝶となってもう一度飛び上がりそう

	詩 　　心境―二十五年夏　　　　　　　　　金 子 勇 男 　　ゆ　く　夏　に　　　　　　　　　　山 本 志 恵 　　祭り　　　　　　　　　　　　　　　金 海 昌 児 　　岩木山にて　　　　　　　　　　　　瀬 川 紀 雄 　　葉の上で遊ぶ雨つゆ　　　　　　　　一 戸 れ い 　　白夜のねむり　　　　　　　　　　　岡本 としゑ 　　津軽平野　　　　　　　　　　　　　桜庭 恵美子 　　人生（十）いわし雲を追って　　　　加 藤 忠 昌 　エッセイ 　　詩の方法論的序説Ⅰ『強いられた暗喩』小論　　郷 よしゆき
	寄贈誌等御礼 109号 　○ 詩とエッセイ「千年樹」第55号　　　 　岡耕秋（諫早市） 　○ 詩誌「子午線」114　　　　　　　　　　子午線社（雲仙市） 　○ 詩とエッセイ「焔」第96号　　　　　 　福田正夫詩の会（横浜市） 　○ 詩誌「ゆすりか」97号　　　　　　　 　ゆすりか社（諏訪市） 　○ 詩誌「山毛欅」第23号　　　　　　　 　山毛欅の会（会津若松市） 　○ 詩誌「北五星 ― Kassiopeia」第八号　 北五星の会（秋田市） 　○ 季刊詩誌「舟」152　　　　　　　　　　レアリテの会（滝沢村） 　○ 詩誌「胴乱」第83号　　　　　　　　 　胴乱詩社（青森市） 　○ 詩と散文「飾画」No.96　　　　　　　　飾画の会（弘前市） 　○アトランチスノート7　　　　　　　　 　水星舎（弘前市） 　○「文芸あおもり」第160号　　　　　　 　青森県文芸協会 　○季刊誌「此岸」第２号　　　　　　　　　此岸俳句会 詩集等 　○『日本・ネパール合同詩集』第Ⅶ詩集　　ナマステ会 　○『川村慶子全詩集』川村慶子　　　　　　コールサック社 　○ 藤森里美詩集『美学実験』　　　　　　 ゆすりか社
	編集後記 109号 ● 日本・ネパール合同詩集である『花束』第Ⅶ集はＡ４版二百二十二頁。代表者である福田美鈴氏のあとがきによると、本号で最後になるとのこと。ネパール側の作品の中で、特に「詩の名において君が詩をレイプしていることを僕は大いに糾弾する」という作品に深く考えさせられる。 ● 詩誌『山毛欅』第23号。斎藤恭子氏の「自主避難」や福西トモ子氏の「忘れられない」など、東北大震災の影響がいまだ深く刻印されていることが窺われる。亡くなられた方々にいつまでも追悼の気持ちであり、同時に、政府が国民を不安にさせる憲法改正、原発再稼働、ＴＰＰ参加、消費税値上げなどに熱をあげて、肝心の復興がなおざりにされていることに憤りを覚える。原発事故に関しても、久間カズ子氏の「髪を梳く」や二階堂晃子氏の「わらいばなし」など、日常生活の中にまで影を潜めているから、より深刻なものが感じられる。 ● 詩誌『北五星』を初めて拝見。代表の佐々木久春氏ら四人による濃密な詩作品とエッセイ。佐々木氏が連載で、中国の現代詩人たちを自らの訳を挿入して紹介されておることに敬服。春に幸運にも知遇を得た同人の田代卓氏は、昨今二年間ブータンに居住歴のある農学博士であり、三篇の詩の中の二編とエッセイがブータンに関わる作品で興味津々だった。 ● 詩誌『胴乱』第83号は三浦義泰追悼号。詩集『惑いなお』からの詩二編、吉崎光一氏と小山内弘海氏の追悼文、神谷直樹氏の書評に学ぶ。書評で〈自己保存マイナス自己否定＝ポエジー〉という図式を用いて鎌田喜八と三浦氏を比較・考察されており、その詩論が興味深かった。 ● 八月は読書そっちのけに山と海、そこでの花・昆虫の撮影に夢中だった。種には亜種や近似の種があり同定が難しく随分と時間を費やしてきた。その作業は、詩作上で同義語や類義語を差異化し選定するのに似ていよう。最終的には、種名や語句がどうあろうと、美しい写真か、詩的な行か、それらが最終的な判断になってしまうが。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』108号
　　　　　詩碑のある丘にて


街の南外れに鷲ノ巣とよばれる小高い山
大狼神社から狭い山径を登る
杉叢の径は杉っ葉に覆われ
淡褐色の蛇を気にしながら数歩前を注視
雑木林で左右路傍の花に視線を向け
木々の花と野鳥を見上げる
脚よりも首が疲れるも春暖なり

頂きに木々に囲まれ陸羯南の詩碑
幾種かのたくさんの小鳥が囀り
枝や幹、地面に隠れては素早く飛び交う
羯南に憧れた街の医師が
一九五三年に命日にあわせ建立という
五言絶句は母校の里程標だった

　名山出名士　　名山名士を出ず
　此語久相傳　　此の語久しく相伝う
　試問厳城下　　試みに問う厳城のもと
　誰人天下賢　　誰人か天下の賢

蒼穹に残雪を載せた端麗な岩木山
小心に壮大な山容が迫り
衰勢の身に白さが眩しい
悔恨も時も忘れ陽春を浴びる

下る山径の曲り角で旧友と奇遇
校長退職の頼もしき級友
母校である麓の小学校をぶらりと訪れ
詩碑の向こうへ山菜採りに行くという
下りきると彼のサイクリング車
陽光眩しく照り返す

編集後記 108号 ● 桜庭恵美子氏により幸運にも岡耕秋氏の『千年樹』を拝むことができた。ご立派な詩誌である。同人に堀内みちこ氏、わたなべえいこ氏、和田文雄氏等。寄稿では特に冨岡悦子氏の『シレジウスの薔薇』に感銘。 ● 詩誌「斜坑」の一年半ぶりの再開。嬉しい限り。簡潔な詩が多いのは村次郎詩の継承および更なる展開なのだろう。仁科氏と上條氏を始め、道尻誠助、岩見誠、たもじゅんこ、竹林正人各氏の研磨された詩句が放つ余韻の空間が何とも味わい深い。そして悠木眞氏の五七五による多空間。 　因みに、上條氏の「復活祭」 　　　孤立していた言葉が連帯してゆく 　　　叙事詩のような音楽が生まれる 孤独から群衆、強いては民族へまで広がり、詩と音楽の壮大な合唱付交響詩が聞えてきそうである。 　それだけに、海邊有盛、前森淳子、照井知二、類家有二各氏が散文詩のように思えてくる。類家氏の『弘前の詩人小笠原茂介氏の九つの詩集をめぐって』を拝読しなくては。 ● 日本詩人クラブ秋田大会が五月十一日に開催された。（私事で恐縮ですが、状況報告させて頂きます） 　青森から田沢ちよこ氏が朗読されるということで『亜土』の市田由紀子氏の三名同行で参加した。会場で小笠原茂介先生と合流。大会プログラムの内容は勿論、懇親会で幸運にも同じテーブルにパネラーのお一人である麻生直子氏や朗読者のお一人であるＨ賞受賞者の中島悦子氏、そして両隣りが清岳こう氏と大会実行委員の田代卓氏と巡り合わせ、大変勉強になった。 　翌日、田沢氏が懇親会で同席であった、もと中四国詩人会理事長の岡隆夫氏が、足を延ばしご夫婦で夕方来弘。四人で弘前駅にてお迎えいたし、祭り最終日でもあり夜桜を案内させて頂いた。やがて田沢氏宛て岡氏からご自身の全詩集が送られ、小生もご恵贈に与り、恐縮に思いながらも実に嬉しかった。。 ● 学ぶことの多い「焔」代表の福田美鈴氏より「風」についてのご好評を頂き、感無量でした。「それぞれの現実が美しい詩法で伝えられ、真実が伝われてきました」「みなさんで詩心を救い合い、白いページを埋めていく、その同人誌のすばらしさを伝えてくれます」。何とも勿体ないお言葉でした。（思わず焔叢書の詩集五冊の拙感想を拙ホームページに掲載。お言葉や詩集に感激し、極私的で無意味でも何か記述したくなるのは至当の理であろうか。） ● 同人の一戸れい氏が詩集『車いす生活の四季こもごも』を上梓されました。お慶び申し上げます。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『岬』第七集
　　　　　集団即興朗読


はじめに…
　はじめに…　無のカオスに　星ありき
石が熱を帯び　光を蘇らせる
　うごめき大地を成し　水を滴らす
　　命が生まれ　風がはこぶ
生の変容のなか　オルフェウスが顕われる

　　　ファゴットとコントラバスが低く唸り
叙事詩人が　目を瞑りリラを奏し続け
―盛衰に人々は散り栄枯に英雄も悲しきや…
　　　フルートとヴァイオリンが玉音を奏で
愛の詩人が　リュートを抱え麗しく
―崇高よ　生の初めに愛ありき　尊き愛を…

　　突然ダダ詩人が花瓶を壊し割れ鐘を上げ
　　シュールな詩人が裂帛の声上げ跳び回る

　　　オーボエとチェロが遠く流れ
抒情詩人が　虚ろにヴァージナルを弾き
―家々を吹く風が街外れで残照の雲に伝え…
　　　ホルンとクラリネットの牧歌に誘われ
田園詩人が　ヴィオラを持ちカンタービレ
―呱呱に目覚め　さあ　森の精たちと逍遥…
　　　遠く管弦と合唱が官能的に響くなか
象徴詩人が　平行和音のピアノと嬌声で
―美の神秘のベールを剥がし幻想に溶け…

　　宗教詩人はひたすら祈り続ける
　　イマジズムの詩人は言葉を千切り続け

　　　弦と何本もの管が多調に崩れ
表現詩人が　悶え手当たりしだいに叩き
―声涙ともに下っては嗄らす　狂　う―…
　　　ペットと打楽器群がけたたましく
前衛詩人が　不協和な電子音で尖り声
―不条理　何たる政治だ　咳唾珠を成せ！

声紋も華麗に鯨波の声
オルフェウスは現れなかった


　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』107号
　　　　　黒天使の息


見えない空から
こんなにも降ってくる
見える空間いっぱい
つぎつぎと
かつて神秘で讃美な
小さなロマンスだった

積雪一五三センチ
一九八二年以来の観測史上最大
誰しもが連日黙々と除排雪
深夜除雪のダンプが残した雪は堅い
近隣みなひとつ空地に溜息も捨て
捨て場のない家々は累々と積み上げる
季節が悪いのではない
それ以前の何か不安にかられて

道路幅が狭まり轍で凸凹に凍てつく
連なる対向車と低速で擦れ違う緊張感
高い路肩に傾斜しながら横滑りしギクッと
あちこち交通渋滞で時に接触事故
みな時間に遅れ辿り着けず
列車やバスは遅れや運休で学校は早退
大学入学試験は開始繰り下げ追試六十人
遅れた受験生は別室対策
みんな粗相のないよう緊迫感
自然災害でも火災でもないのに
何かの怖れにかられて

屋根の雪降ろしの事故が絶えず
死は日常茶飯の報道に浮かばれない
かつて白い抒情だった
放射能や有害の微粒子を隠し
対流を狂わせじわじわと
不吉をそそぐ

編集後記 107号 　詩誌『朔』174号〈杉山平一追悼号〉を拝読して、杉山氏が村次郎氏を通して『朔』同人に精神的にも深い関わりを持っていることを初めて知り、同人の杉山氏への熱い賛仰に感動を覚えた。東京と関西の四季からの寄稿、同人の鳥羽貞子氏と萩原康吉氏、小笠原眞氏、そして圓子哲雄氏の各追悼文。特に圓子氏の「杉山平一先生とご一緒した三陸海岸」は羨ましくも貴重な体験であり、まるで短編小説を読んでいるような緊張感も覚えた。改めて詩誌『朔』の威信を深くする。 　小生、杉山詩を意識したのは詩誌『ゆすりか』50号でであった。拙詩の前のページが杉山氏の「風鈴」と「訪問」であった。実に上手いなあ、と思った。しかし、ご自身による略歴紹介がすご過ぎ、遠き詩人だと思ってしまった。また、有難くも簡潔で和風な絵に短詩を添えた年賀状を送ってくださった元関西詩人会長の故相馬大氏の、その短詩がとても素敵だと思いながら、抒情詩を根底に置き現代詩や象徴詩に憧れ続けた。やがて、相馬氏からご著者やお手紙も頂いた。思い切って詩誌『風』を送付させて頂いたところ、ご返信をいただき、同人の桜庭恵美子氏の詩を賞讃され、『風』を読んでくださったことを喜ぶとともに、小生に対し、せっかく津軽という恵まれた風土におるのだから、それを詩うことを勧められ、自らが本来詩うべき内容、表現に早く気づくべきです、とのお言葉を頂き、有難くも多少ショックも受けた。屡次主宰者の藤森里美氏からお電話を頂く度に、分かりやすい詩を書くことが一番難しいんですよ、と諭された。いつしか初心に帰るつもりで50号を再読した。その時、改めて相馬氏の論評「ひとの心のいたみと詩」を読んで感銘した。杉山氏の詩集『夜学生』の書評である。最初に引用された詩が次の「不在」である。 　お隣は　遠くへ 　引越して行ったのに 　シーンとした空家にむかって 　幼い女の子が呼びかけている 　きぃくちゃ～ん 　あーそおびましょおお！ 　ゆるやかに　うたうように 　信ずるものの澄みきった声で シュッペリヴィエルの「運動」以来の衝撃だった。即座に次の俳句を作った。剽窃である。 　隣の子引越したのに遊ぼうよ 連句・俳句中心の文学仲間の何人かにメールなどで送った。反応があった。すぐ種明しをした。後に杉山氏の現代詩文庫を購入。しかし、無念、広い読みで通読に至らなかった。 　街の本屋で詩集『希望』に出くわし、これなら読めるだろうと即購入。感想を拙ＨＰにアップしフェイスブックで紹介。５人の方から「いいね！」を頂き、詩を書いている東京在住のＫさんから書店で探して読みたいとのコメントがあった。杉山詩にいま深々と敬意の思いである。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　弘前ペンクラブ 第53号
　　　　　崇高の光


　家の裏は林檎畑が消えた空き地
　灰色の雪原に埋もれ僅かな星
　すべてが眠りに誘われるなか
　広遠な宇宙の夢想に流離う

　森羅万象をイメージで知覚し
　自然が顕す原器で理法を受け
　発語し対話し世界と交感し始める
　これらを感情が巡り
　〈心〉がそれらを包んで

　薄闇の美は閉じられた眼を愛し
　神秘な真理が透明な雪片を生み
　踏み出す一歩に善が道を刻む
　その心の下で〈意識〉が意識する
　心から飛翔して〈精神〉が震える
　これらを反省が巡り
　〈心情〉がそれらを抱えて

　心情の蒸留に崇高が湧き上がり
　凍てつく夜の静寂に抒情が走る
　ロマンの無限が収斂して一閃し
　幽かに遠くコーンと響きゆく

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陸奥新報 詩の窓274
　　　　　月日の鼠


　大雪の日々
　世は外も懐も寒さを増す
　若者でさえ仕事なく老いてはなお
　拝む前に年金は消え
　街の展覧会や音楽会に静もる

　隠遁は名士のもの
　凡夫はお経唱えず箸で茶碗を叩き
　お恵みください、と心根で
　コップ半分安い地酒を注ぎ
　積んでいた書物に無聊をめくる

　雪降る晴れ間
　冠毛ふわふわと種子が飛んできた
　壁に着いた雪に引っかかる
　それ、秋から春へと飛んでゆけ
　この体も春へと運んでゆけ

　街灯りを反射した橙色の雲
　下弦に向かう煌煌とした満月は
　雲間を何と速く走ることか
　立ちくらみ、追憶がかじられ
　少年が数年前だったかのように

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』106号
　　　　　ナナカマド


　津軽真言五山の一つ久渡寺
　清める杉並の急な石段を上り
　すべてにこころ浮き立つ誕生の旬
　こどもの森の山開きでもらった

　山頂にどれほど訪れただろう
　大日如来に太陽の道は長かった
　野営し冬山も登り夜と冬の密教
　子どもたちも一緒に成長した

　いま　家の裏で
　残雪のブロック塀の傍らに
　背丈は倍伸びたが枝一本
　子どもたちはもういない

　弱々しく空にすがりつけないで
　か細く空の色に何も書けないで
　ひととせ通じても
　雀どころか毛虫も素見にこない

　でも　冬芽だけはあちこち
　りっぱに紅紫色でつやをだし
　翌朝　あっぱれ晩秋の快晴
　みごとに幹が空を突く

　希望は端から無縁だが
　聖観音にいつまでも夢をかけ
　人生まだまだ死ぬまである
　津軽三十三観音霊場第一番札所

編集後記 106号 ● 詩誌『ゆすりか』94号に掲載されている詩「ひょうひょうと」から主に第一連と終連、 　　庭の生け垣に 　　蛇の殻が絡まっている 　　二つ折れになって 　　なかばよじれて 　　風にゆれている 　　・・・・・・ 　　蛇は 　　キッーと天を見据えて 　　苦しみに耐えるのだろうか 　　解脱の歓喜にうち震えるのだろうか 　　・・・・・・ 　　人も　また何かを乗り越え 　　乗り越え 　　そのたびごとに 　　己の殻を脱ぎ捨てていく 　　目には見えないそれら 　　人型の抜け殻が 　　どこかで 　　ひょうひょうと風に晒されているかもしれない 　簡潔な表現で、脱皮の瞬間という生の凝集と抜け殻の方生感溢れた、示唆に富んだ詩空間。抜け殻はいつまでも枝に引っかかっているのだろうか。いや、ひょいと風に跳んで、自らも風になるのだろうか。 　それぞれ人の抜け殻はいつから何枚、風に揺られているのだろう。その抜け殻を知覚できない、相対性理論のような世界。実体である本人の消滅後はどうなるのだろう。 　この詩は、著書何冊かを持つ詩人・住吉千代美氏ご自身の、脱皮したばかりの、風に揺れた抜け殻の鱗の一片として翔んできたのかもしれない。 　作者は『ゆすりか』の今号からの同人。これまでも、若い時から崇拝していた著名な詩人たちを含め、多くの方々が参入しては去って行かれた。でも、愚生の心の中では、彼ら詩人たちの抜け殻のような余韻がいつまでも揺れ輝いている。 ● 当誌『風』代表の加藤忠昌先生の御令息次男様がご逝去されました。新聞記者をなされていたという。こころからお悔やみ申し上げます。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『青森県詩集』12
　　　　　消えゆく文字列


　暗鬱な雨が零れようと　陽光降る風が揺ろうと
　道草食わず帰宅し着替えもせずパソコンをオン
　新聞に目を通すことなく音楽を流すこともなく
　ホームページ用スクリプトで論理と直観に夢中

　気づくと　もう還暦を終えようとしていた
　記述のすべては己に関する貧弱なデータばかり
　他者の著書や作品から鼓舞された溜息ばかり
　データを格納したのは脳、心、遺伝子にだろうか
　それらのパスワードを忘失しアドレスも紛失
　自分を検索したら「見つかりません」と返答された
　少なくともメモリ上には存在するはずであり
　せめてもと自分をソートしてみた
　　ターレス、ピタゴラス……フーコー、デリダ……
　偉大な名がスロットマシーンのように回転しては
　再び現れることもなく、〈ただの僕〉で静止
　文学や芸術にチェックを入れソートしてみた
　同じく〈ただの僕〉で静止、固有名もない

　無名な絵描きが筆に安絵具を塗るように
　辻音楽師が人のいない街路樹に聴かすように
　ただの僕はずっと画面と対話してきた
　最期にもう一度、今度は〈僕〉かつ〈０〉で検索
　〈真〉と出た

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』105号
　　　　　小さな林檎畑


　米農家だが　岩木川の支流・平川の土手下に
　酸味爽やか紅い千成と収穫遅い小玉の雪の下

　真っ青な陽光を赤く浴びた日々
　深みを潜り浅瀬をはしゃぎ対岸まで泳いだ
　隣は生家の向かいにある母の実家の畑
　腹が減るとじゃがいもを掘り
　ヤスリで突いた川魚と一緒に川原で焼いた
　背も足の裏も大小の石や砂地によく焼いた
　果汁が欲しいと早生の緑色の大中をかじった
　熟した実がないと黄緑色のスグリに口すぼめ

　やがてスターキングデリシャス
　剪定の枝集め　人工授粉　実すぐり　袋かけ
　枝と葉群と梯子が主役だったが時に幹に遊ぶ
　葡萄　李　真桑　西瓜　トマト　苦手な胡瓜
　苺をほおばり親戚の桜桃の木に登りぱくつく
　樽一杯の真っ青な農薬掛けのホースを引き
　かじりながら竹籠に林檎をもぎ箱に詰める
　土手上のトラクターに箱を積むのに息切らせ
　岩木山の夕日にすべてが林檎色に
　
　とうに父が亡くなって　畑のことも忘れ
　何十年後ぶりか家族皆で母とリンゴ狩り
　つがる　ふじ　林檎畑の最後の年だった
　翌年　河川敷公園のトイレの敷地に

　還暦を過ぎて追懐するとは
　余生は林檎を食べて生き延びよう

編集後記 105号 ● 全日本写真連盟会員である横川健氏の写真集『村上大祭』。村上大祭は、新潟県村上市の羽黒神社の例大祭で、七月初旬に二日間で行われ、新潟県下三大祭りの一つであるといわれる。十九町内の十九台の「おしゃぎり」という屋台が市中を練り歩く祭り。屋台を曳きながら大人が村上甚句を唄い、続いて少年たちが唄うという。屋台の上には笛太鼓の囃子がいる。夜の祭りの撮影は難しいと思われるが、屋台や多くの動きある人物が明瞭に写し出されている。 　十七世紀に、村上藩主が羽黒神社を城から見下ろすのは畏れ多いとして居城を移した。その時、移転先の町の人々が喜んで大八車に太鼓を積んで町じゅうを練り回したのが由来らしい。 　横川氏は加藤代表の旧知の方であるという。村上市は、鮭が上ってくる美しい三面川を抱き、鮭にまつわる独自の文化を発展させ、武家時代の城下町の雰囲気をよく残した街で、横川氏はそのお茶のできる北限の地に魅せられたという。撮影ポイントを村上市に絞り、集中的に取材されている。これまでの刊行に『写真　にいがた　村上の四季』『写真　越後村上　三面川の鮭』がある。 ● 詩誌『山毛欅』第22号。伊達市にお住まいの久間カズコ氏、昨年詩部門で福島県文学賞正賞を受賞されておるが、久間氏の、毎日地表で放射能を計測している「花吹雪の中で」、嫁と幼稚園に入園したばかりの孫が盛岡に避難したままで、孫に会いたくなったら写真館にいくことを詩った「なぜ？」に心打たれる。 　また、福島市に避難されている二階堂晃子氏の詩「一時帰宅」に教わる。故郷である帰宅困難地域へ、最後だと覚悟して、一時帰宅許可証を持って訪問する。故郷は死にあえいでいる。故郷は息を止めた。真っ青な空だけは果てしなく広がっているのに。兄がぽつりと呟く。命あるうちに戻れることはないだろうと。そして、二階堂氏のエッセイ、いや報告書「非日常の始まり―原発立地町からの脱出」は、まず、兄夫婦を襲った大津波の実情を伝えている。そして、二次災害について。避難してください、火災？　何のことか理解できなかった。原発から５キロだった。メルトダウンとは誰も知らなかった。生きた報告書であり、読む側も臨場感を覚えてしまう。佐藤のり子氏の「仮説の「部屋」から」、じっと耐えて、生を見つめておられ、深く共感させられる。 　古来人智では対処できない自然災害だけで大変だというのに、ましてや、人智を離れ技術自身だけで勝手に展開していく人智の制御を越えた余計な原発なぞ。 　林檎中心の津軽の山麓でも、農家の方々が美味しい桜桃や桃もつくっている。でも、一度は本場の山形の農園で桜桃を、福島で桃を食べてみたい、とは誰しもの思いではないだろうか。農牧業は、漁林業もそうだが、文学や芸術なぞよりは勿論、科学技術よりも重要な、経済以前の根本にあるものと思われるが。 ● 詩誌『子午線』112号、吉田美和子氏の「キム　さんの話」に学ぶ。特に、「私」個人ではなく常に「私たち」であるウリ思想、相手に必ず年齢を尋ねる礼儀、苗字も個も共に大切にし常に両方での呼び掛けなど、教わることが大きい。それらの内容が、詩の形で滑らかなリズムで流れている。同誌は後半〈題誌〉で成っておる。そういえば『山毛欅』の方も後半〈課題誌〉で構成されていた。 ● 同人の郷よしゆき氏は、奥方様が亡くなられ、しばらく筆を折られております。御奥方様のご冥福をお祈り申し上げます。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『風』104号
　　　　　時間の庭


　　（次男のいる南部藩は盛岡でルーヴルの一隅をかいま覗き
　　　長男のいる伊達藩は仙台でヴェネツィアの輝く遺産を一瞥
　　　津軽から草鞋を江戸まで伸ばしエルミタージュを訪れる
　　　そしてセザンヌより目指したのはロベールだった）

　ユベール・ロベールの絵に想起させられた
　自分の埋もれた日々を発掘することを
　馴染んでしまった何もない小さな庭に洞窟があり
　その廃墟に幾つもの空間が折り重なっていることを

　学習のざわめき　祭りや登山シューズの音たち
　鞄からピンポン玉や幾種ものボールが転げ落ちる映像
　新築に陶酔した臭い　幼子たちの振舞いから零れる香り
　だが　音符に固まった痕跡や塵に化した臭い　蒸発した運動
　
　ずっと凡庸な自分史を西洋思潮史に単純に擬えてきた
　世界の体系を自分の趣味の中で浅く縮図してきた
　だが　もう生成流転も化石と化し　儚く一点に収斂する
　すべてが人生の廃墟に埋もれ消えゆく

　庭が小さな部屋を包み込み、それでも薄っぺらな表層
　レースカーテン越しに夕日差す床が侘しく
　永劫でも輪廻でもない　ただ消滅するための回帰
　凡夫には廃墟さえなく

　　（三世代家族の居住の底に　移住してきた過去の重層
　　　誰にでも聖家族だろう借家の四人から三人
　　　転居を繰り返したアパートの二人の薄紙ページが幾枚か
　　　賑やかな田園だった故郷の孤独な自室へと遡及する
　　　そして生誕へ　その前の無へ　回帰）

編集後記に代えて 104号 ● 同人の郷よしゆき氏が第三詩集『ＳＴＯＲＹ』を上梓された。あとがきによると、詩人自身の「物語」であると同時に、人類の潜在意識の奥底に深く刻まれた物語であるという。生命誕生四十億年の太古の歴史をなぞり、ウルム氷期の遠い記憶の底や白亜紀の小さな琥珀から、今日生きるために流した一筋の涙が生命の原石となって輝くのを遠く透視する。いや、もっと、ビッグバンから生命の誕生へと至る遠い物語の底で、母達の子宮とともに海へ沈む原始の太陽の記憶へと遡及しながら、輝くために生まれたこの地球から、銀河に封印された人類の物語へ帰還しようとする。誕生と滅亡を繰り返す数多の物語がありながら、常に未決のまま物語を再出発するのである。 　恐山の賽の河原で風車が回る音に耳をそばたて、三内丸山や亀ヶ岡で縄文の臭いをかぎ、竜飛岬の風を受ける。そして、岩木山の頂きに立ちブナの森を見下ろす。それらから遠い光りと闇の国を通過しながら、また物語を始めるのだ。 　詩は四行詩が基底にあり、詩集も四編ずつⅣ部からなり、形式美と内容が一体となっていて、寡作だけに詩句も凝縮して審美的である。郷氏は、物語の基底に共同幻想のようなものを措定していて、どの詩にも通奏低音が奏でられている。それは、郷氏が学生時代にフッサールを研究しており、物語の底に常に流れている沈黙した現象学的な深遠な時間の持続なのであろう。 ● 『飾画』No.91の内海康也氏の「言霊頌―ことばは心の臨界をこえて」。ブルックナーの音楽こそ、「時の神と遠つ国からやってきた降臨祭」。「時系列で並べ替えると／時代錯誤に陥る」。一聴では時代錯誤もいいところ、その愚直さがシンフォニーというジャンでの開拓として救われているのであろう。時にロマンチックに「敗北者の心中に侵襲する／寛容と不寛容のせげみ合い」。オルガンのシャワーを浴びて「幸福の幻想の束縛から逃れて」「よみがえる予感をよびさますとき／荘重な和音のこだまは／先験的な言葉と結びつく幻像に／隠された「だ」の断定で／暗喩は零記号の臨界を越える」、そんなか弱く震える大河のような概して肯定的な音楽なのだ。そのとき「〈時〉が溶解し黄金色にあふれる」。 ● 『亜土』86号の日比美彦氏の「震災連悼祷」、特に「とどかない」は凄絶な状況であったことを詩の形で報告。朗読が苦手な愚生でも、進んで声を張り上げ朗読したくなる。凄まじく、隠蔽のない描写。地震直後に矢も盾も堪らずヘリが飛び立ち、混乱した中継･･･。 　画面はできるだけ 　惨劇の渦中にある人々を映さないように 　慎重に切り換えているようです 　それでもときどき 　運転席で狼狽している人の姿が 　とらえられてしまいます 　わけもわからず流される人々の叫びが 　聞こえてくるようです 　・・・・・ 　今そこにいる人たちがわからないことが 　遠くの私たちには見えている 　画面に釘付けにされながら 　伝える手立てはないのです ● 詩人の横浜市在住の妹による上梓『月永亜夢詩集』。全く無知だった。鰺ヶ沢の出身で弘前に在住し、一九七〇年頃から八二年まで詩を書いていたという。「東奥詩壇」に度々投稿し、「弘前詩人」の同人でもあったという。若干三十一歳で他界されている。郷よしゆき氏と同様、愚生同年生まれである。二人とも月永氏と同時期に詩作に耽っていたのだ。その後二人とも偶然にも詩作から離れただけに、少なくとも愚生は月永氏との符合を覚えざるを得ない。象徴主義的な詩風でありながら清潔な感性で、その詩才に打たれた。時に超現実主義を垣間見せながらも、現代的な抒情を放っている。その才能が実に悔しまれる。一度も知遇はないが天折した同年生まれの見事な散文調の詩人らしき詩人・福澤公伯を思い出す。因みに、一級先輩格だが、津軽において我々の世代を代表する詩人・藤田晴央氏も同年生まれである。なお、二級先輩格の船越素子氏が書評を陸奥新報に書かれていた。 （郷氏の詩集と同様、月永氏の拙い感想は拙ホームページ「シンプル・ミニ哲学＆津軽の今日の詩人・画家・音楽家たち」に掲載） ● 『胴乱』第79号の泉田敏子氏の「落ち葉の風をまとって」に極めて深い詩趣を覚える。 　遊園地に人影はなく 　空は無性に高く蒼く 　足元を落ち葉の風が 　吹きぬけていく 　　コドモガイナイ 　　コドモガキエタ 　これまで何度もどのたかの詩で出くわした情景だが、詩全体が醸し出す詩情を一つの場で濃縮している。「消息」で小山内氏が統廃合で小規模校が消えていくのを寂しく感慨されておるだけに、胸を打たれる。私事、愚息二人が同時に盛岡、仙台へと旅立ったが、そんな個人的な心情を遥かに越えた世界である。 　じぐざぐ歩きの　錯誤の道端にも 　季節の草花は咲いていた 　・・・・・ 　けれど 　ひしひしと背骨にしみこんでくる 　この寂寥は 　どこから来るのか 　常套語のようでありながら、どうしてこうも痛切に響いてくるのだろう。自然に、詩が上手いとしか言いようがない。終連に「障子（生死）のすき間から／淡い光が／射している」があるからか。詩全体が幾つかの短詩の佳品から成っており、それら淡い幾色かが一つの透明な鉱物に結晶しているような作品である。そして時空のスケールも大きい。 　風になった老人が 　とぎれとぎれに呟いている 　　　かぜは　うちゅうからきて 　　　また　うちゅうへ　もどってゆく ● 『坂道』第8号。一昨年最終選考まで残ったささきひろし氏、三冊の詩集で漁師の生活や人生を歌ってきただけに、「鬼の歌」で「北の漁師の兄はいう／―海は悪くない」「学者はいう／―海は悪くない」「東北の漁師はいう／―海は悪くない」というのに真摯に対峙し、「ほんとうにそうだろうか／やはり／―海は悪い」と大変な勇気で決断する。「―海を許せない」と。心底揺さぶられる思いだった。それだけに、原発事故の被害を被った酪農家を歌った「白い乳川」の意味がより了解されてくる。 　加えて、結城文氏の「陸前高田から石巻へ」のリアルなレポート。そう、津軽もうかうかしておられない。月谷小夜子氏の「あさこはうす」に驚く。無知だった。大間原発の敷地内でひとり、碧い海と土地を守っているのだ。愚生もあさこはうすへの道が鉄条網で閉ざされないよう、郵便屋さんが配達してくれるよう、葉書を出そう。ましてや日本郵趣協会の会員、岩木山と林檎の切手を貼って。津波は悪い、その海は悪い。原発事故は悪い、その原発は悪い。そうだ、葉書を持ってあさこはうすへの道を。でも、無理か･･･。県知事は東大の国文学でひとのこころを学んでおるはずだが･･･。 ● 有難くも〈福田正夫詩の会〉から第二次焔叢書の刊行詩集が次々と恵贈された。しかも、福田美鈴氏の『ネパールの風』や金子秀夫氏の『ヒマラヤの歌』までも。何とも恐縮の限り。金子氏は、詩集一冊のみ上梓の愚生が日本詩人クラブの会員になる時に、愚生が所属する詩誌「ゆすりか」の同人でもある当時詩人クラブの会長であった天彦五男氏に代わって推薦者になってくれた方かもしれない。追って、同詩人クラブの街の大先輩・川村慶子氏から新刊の詩集『遠き海明け』が恵贈された。名ばかり会員の愚生は誠に嬉しい限り。 　この連休に、今春入学したばかりの次男がいる盛岡と大学院に入学した長男がいる仙台で県立の美術館を訪れ、足を延ばして上京し二ケ所の美術館とコンサートを訪れた。愚生、根っからの芸術耽溺者のつもりだが、何せ自ら音楽ができないどころか絵も描けない。それだけに、いくら下手であろうと詩だけは救いであり、素直に先達者の詩集から学び詩趣を味わえられるのが何よりの愉しみである。

　

---

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陸奥新報
　　　　　花炭


寒い　厳冬をどうやって乗り越えよう
薪(たきぎ)を燃やし尽くし頼れるのは
薪(まき)を割って焚き木をくべた秋までの
残った炭(すみ)を燠(おき)にしてか

平川市の山里に花(はな)炭(ずみ)の工房があった
万葉時代からの嗜みのひとつだという
茶の湯で菊(きく)炭(ずみ)とともに優雅で高尚なもの
津軽藩にもお抱え炭焼師がいたのだろうか
松ぼっくり、柿、実すぐりした林檎、黍(きび)
反射し量感のあるモノトーンの渋さ
栗の毬(いが)、莢(さや)豌豆(えんどう)、鬼灯(ほおずき)
黒が透けそうな季節の繊細な輝き
籐(とう)籠(かご)、種々の小枝と葉っぱ
限りなく姿を留めながら儚く壊れそうな
奥には伴侶が長年育てた盆栽の飾り炭
その死に化粧は立体的な水墨画だった
禅の庭園を呼び俳句の余韻が永遠を生む

炬燵は木炭から豆炭　そして電気にだが
森林破壊は恐い　原発はもっと怖ろしい
地熱、水力、火力、風力よ　心に暖を
津軽の地水火風よ　花炭のように