リヨン派・モレステル風景画派

　
１．リヨン派の特色

・リヨンは絹織物の街でありその花のデザインが盛んなため、既に肖像画や静物画が中心だがリヨン素描学校があり、またリヨン美術学校にも花の絵のクラスができる。その教授として、1810年から1918年までベルジョン、ティエリア、レニエ、カステクス＝デグランジュが続く。花のデザインの織物という点で競争相手であった綿工業の町ミュルーズのデザイナーたちは絶えずリヨンにやって来た。リヨンでは多くの花の絵の画家たちが誕生している。
・リヨン派最初の画家とも言えるグロボン…リヨン素描学校で肖像画家グロニャールに師事。1796年、花の画家ベルジョンと共にパリのサロンに入選。グロボンはオランダ絵画の技法を完全に習得し、身近な人たちの肖像画やリヨン近郊の風景などを描きだす。グロボンの周りには多くの若い芸術家たちが集まった。将来考古学者・リヨン美術館長となるアルトー・ダヴィニョン、そして共にパリでアングルの弟子であったリシャールとレヴォワル、プロヴァンスからグラネやオーギュスト・ド･フォルバンら。
・トルヴァドゥール絵画（トルヴァドゥール様式）…逸話的絵画。絵のサイズは小さい。この様式は、思想、文学、絵画の間に結びつきをもたらす。オランダ絵画の技法の影響。この様式の開拓者リシャールを剽窃する画家はパリのサロンで多く現れた。リヨンにおける後続の弟子たちは、師の描いた歴史的主題を風俗画的内容に変化させていった。トルヴァドゥール様式の後裔として、ボンヌフォンがいる。他にジャコマン、デュクロらがいる。
　なお、リヨン派という表題には無関係だが、リヨン美術学校にわずか５年間勤務したリシャールは、その間スイス出身のグレールを育てている。グレールはパリのアトリエで多くの弟子を集め、そこからジェローム、ルノワール、モネ、シスレーなどが輩出する。
　ジャコマン（ジャン＝マリ 1789-1858）…リヨンの画家、版画家。レヴォワルに師事。主に肖像画、風景画を描いた。
　デュクロ（ジャン＝アントワーヌ 1783-1868）…リヨンの画家、版画家。レヴォワルとリシャールに師事。主に風俗画、風景画を描いた。
・レヴォワル一派…共にリヨン派の形成を成したリシャールと双子兄弟的なレヴォワルは、やがてトルヴァドゥール絵画よりサイズがいっそう大きくより正確に史実に基づく絵を描き出し、リヨン美術学校の教授職に長く就いていたこともあり多くの弟子を育て上げた。ド・フォルバン伯爵が弟子たちのパトロンとなり、夫妻のコレクションに加えていく。弟子たちにはボンヌフォン、ジャコマン、デュクロも含まれるが、先の歴史画の面ではジュノが引き継いでいく。一派は一定の量を持つ＜リヨン派＞という概念の容認を促すことになる。
・リヨンはイリュミニスムと神秘主義の二重中心地であり、フリーメーソンが活発であった。狭義の＜リヨン派＞は、その新プラトン主義的哲学的な宗教思想を表現したものであり、理想主義的で象徴性も強い。ドイツのナザレ派の影響があり、イギリスのラファエル前派に影響を与える。いわゆるリヨン派を代表するパリでアングルの弟子であった３人ジャンモ、シュナヴァール、H.フランドラン、そしてパリでドラクロワの弟子であった象徴的なピュヴィス・ド・シャヴァンヌら。
・リヨンは、ジェラ山脈とアルプス山脈と中央山岳地帯の狭間に位置し、風景画に有利な位置。グロボンの後継者たち、ラヴィエとトレヴーらによる低地ドーフィネ地方のクレミューの画派と、それに続く、そこへ移り住んだラヴィエやヴェルネらのモレステルの画派、そしてプロヴァンスにおけるサン＝ポール＝レ＝デュランスの画派を形成する。他に、アピアンを先頭にその地の出身であるビドーらによるジェラ山脈の支流の端ビュジェイ地方を選んだ画派もひとつのグループを形成した。このグループはモレステル画派とよく交流していた。風景画家カランも、クレミューの友人たちとよく交流していた。クレミューでは既に、アングルの弟子であったギシャールが厚い信望の下に前衛的な若い世代を集めていて、その中にには早世したセーニュマルタンがおり、また批評家でもあるギシャールはヴェルネとラヴィエに素晴らしい賛辞を送っていた。かつてギシャールは、ドラクロワをも崇拝しパリで各種の文学サークルやフーリエ主義に接近していた。
　
２．リヨン派の略史

　1793　パリの革命軍に包囲され、大きな物的損害を受ける。
　1796　グロボン、パリのサロンで成功。
　1802　リシャールのトルヴァドゥール様式がパリのサロンで注目される。
　　　　トルヴァドゥール様式の誕生−リシャール『夫の死に涙するヴァランティーヌ・ド・ミラン』
　1803　リヨン美術館公開。
　1807　リヨン美術学校創立。
　1810　レヴォワル、パリのサロンで成功。
　1817　ド･ベリ伯爵夫妻がレヴォワルの弟子たちのパトロンとなる。
　1820　ド･ベリ伯爵、暗殺される。
　1821　＜芸術友の会＞設立、美術展覧会が開催される。
　1833　H.フランドラン、ローマ賞受賞。
　1845　ボードレール、リヨン派を批判（『哲学的芸術』）
　1848　シュナヴァール、パリのパンティオンの装飾に着手。
　1851　リヨン美術館にリヨンの画家たちのための展示室が設けられる。
　1853　ラヴィエ、クレミューに定住。
　1854　ジャンモ、＜魂の詩＞第一部完成。
　1867　ラヴィエ、モレステルに住む。翌年、モレステル風景画派が形成される。
　1872　リヨン万国博覧会。
　1874　ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、パリのパンティオンの装飾に着手（98年に完成）。
　1881　ジャンモ、＜魂の詩＞刊行。
　1888　リヨン美術協会創立。
　1894　リヨン万国博覧会。
　1896　フルヴィエール聖母教会落成。
　
３．リヨン派の画家たち
(1) リヨン派の形成期
　1) リヨン派の前…古典主義、オランダ絵画の影響、若い画家たちの指導者
　
エヌカン（フィリップ＝オ−ギュスト　Hennequin, Philippe-Auguste　1762 リヨン - 1833 トゥールネー）
　リヨン出身の画家で、革命家でもあった。
　初め、パリからリヨンに来た画家D.ノンノッテに師事。次いでパリに出て画家H.タラヴァルや彫刻家で画家のE.ゴワに師事しさらにダヴィッドの弟子となる。青年の頃パリからローマに留学。1789年のフランス革命勃発の頃にはパリに戻り、その後リヨンに滞在。1794年のテルミドールのクーデターの後、再びパリに行く。1814年のブルボン王朝復興に際して、当時オランダ領（現ベルギー）のリエージュに移り、次いで同領内のトゥールネーに住んだ。
　18世紀末から19世紀初めにかけてのフランスの政変の中で、革命家としてリヨンやパリで政治運動に係わった。これを反映して神話画、歴史画、肖像画と共に、当時の政治事件を主題とした絵画も描く。油彩画の他に版画やペン、淡彩による素描も残している。
　
グロボン（ジャン＝ミシェル　Crobon, Jean-Michel　1770 リヨン - 1853 リヨン）
　18世紀末から19世紀初めにかけてリヨンの美術界において重要な位置を占めた画家。初めリヨン素描学校グロニャールに学んだ。次いでリヨンの花の画家ゴニションに師事。リヨンに一時滞在中の若きプリュードンに会う。1789年、パリに短期間滞在。この頃まで主に肖像画と風俗画を描いていた。が、パリで知り合った風景画家デュヌイの影響で、風景画にも力を注ぐようになる。1796年、パリのサロンで成功。その後も1812年まで何度か出品。
　オランダ絵画を愛し、その影響を思わせる細密描写の風俗画や風景画を多く残した。リヨンの風景を、その自然の眺めに倣って描き始めた画家でもあった。1813年にリヨン美術学校の教師となり、1821-39年同校の初等クラスの教授を勤めた。

　2) トルヴァドゥール絵画−リヨン派の形成期、逸話的絵画
　
レヴォワル（ピエール　Revoil, Pierre　1776 リヨン - 1842 パリ）
　リシャールと並ぶトルヴァドゥール様式の画家であると共に、19世紀初めのリヨン画派の形成において中心的な役割を果たした。
　初めリヨン素描学校でグロニャールに学ぶ。次いで1795年にパリでダヴィッドの弟子となる。1804年にパリのサロンに初出品。同年リヨンに戻り、1807年にリヨン美術学校の校長兼教授となる。特に1810年のパリのサロンへの出品で成功し、以後18412年まで度々出品。そしてド・ベリ公爵夫妻の寵を受けるようになる。主に王侯貴族に関する歴史的な物語を描き、中世の文学に関心を寄せ、熱心に中世の遺物を収集した。
　1818年に美術学校を退職し、南仏のプロヴァンス地方に移った。その教授職をリシャールが継いだが、1823年に再びリヨン美術学校の絵画のクラスの教授となり、1830年まで勤めた。レヴォワルはこの美術学校で、やがて19世紀におけるリヨン派絵画の発展を担う若き芸術家たちを数多く育てた。しかし、七月革命に際し、リヨンを去ってプロヴァンスに移った。1838年にパリに移り住み、パリを終焉の地とした。
　
リシャール（フルーリ　Richard, Fleury　1777 リヨン - 1852 リヨン近郊エキュリ）
　トルヴァドゥール絵画の代表的な画家。トルヴァドゥール絵画の特徴は、中世の王侯貴族や騎士の物語、特に王の物語や宗教的な物語を、精緻で入念な画法で描いた点にある。
　1789年にリヨン素描学校に入学しグロニャールに学ぶ。その後1796年に、レヴォワルと同様パリでダヴィッドの弟子となる。1801年にパリのサロンに初出品。翌年のサロンでは、中世のフランス王家の逸話を描いた作品により成功を収める。パリのサロンには以後1824年まで度々出品し、あと晩年の1846年に一度出品した。ジョゼフィーヌ皇后の寵を受け、1814-30年の王政復古期にはルイ18世一家の厚遇を受けた。
　トルヴァドゥール様式を開拓し、抒情に満ち、中世の宗教的精神への憧れを特徴とする。1809年にリヨンの宗教秘密結社フリーメーソンに入会している。1809年頃からリヨンとの結びつきを深め、1818-23年にレヴォワルの後任としてリヨン美術学校の絵画クラスの教授を勤めている。しかし、1924年頃より健康を害して制作活動からほとんど離れ、1834年にリヨン近郊のエキュリに移った。
　
ジュノ（ミシェル　Genod, Michel　1795 リヨン - 1862 リヨン）
　19世紀におけるリヨン派の形成期に活躍した画家。1807-13年リヨン美術学校に学び、そこでレヴォワルの忠実な弟子となる。1819年にパリのサロンに出品し成功を収めた。そしてド・ベリ公爵夫妻に買い上げられるようになる。ド･ベリ公爵は、ボンヌフォン、ティエリアなどレヴォワルの弟子たちのパトロンとなったが、1820年に暗殺された。ジュノは、1820年頃リヨンに定住し、1821年以降はリヨンの展覧会にも出品した。
　宗教画、歴史画、風俗画、肖像画と各ジャンルにわたっているが、特に当時の人々の生活を感傷的に表現した風俗画や戦争の情景を描いた作品が注目された。1832年にフルヴィエールの本堂のためのコレラ奉納画のコンクールに応募している。1839年より没する直前までリヨン美術学校の初等クラスの教授を勤め、後進の育成にも貢献した。
　
ボンヌフォン（クロード　Bonnnefond, Claude　1796 リヨン - 1860 リヨン）
　19世紀におけるリヨン派の形成期に活躍した画家。1908年にリヨン美術学校に入学、そこでレヴォワルの弟子となる。1817年にパリのサロンに初出品。以後ド・ベル公爵夫妻の庇護を受けたが、1820年に公爵が暗殺された後、レヴォワルのグループから離れる。そして、パリでゲランの弟子となる。ゲランのアトリエでオルセルと一緒になっている。ゲランがローマに行った関係で、1825-30年ローマに滞在、そこでナザレ派のオーヴァベックに会う。
　イタリア古典主義の作風で、主に風俗画や肖像画を描いた。油彩画の他に風刺画や石版画も制作している。1832年にリヨン美術学校の校長兼絵画のクラスの教授となり、没年まで勤め、リヨンの後進の指導にも尽力した。
　3) 花の画家たち 　
ベルジョン（アントワーヌ　Berjon, Antoine　1754 リヨン - 1843 リヨン）
　花の絵を中心に多くのジャンルを手がけた。医師の修行についた後、リヨンの彫刻家ペラシュに素描を学んだといわれる。次いで、花の絵を学び、絹織物のデザイナーとして働いた。その傍らで絵画を制作。1791年パリのサロンに初出品。その後パリのサロンには数回出品している。1793年の革命軍のリヨン包囲の後にリヨンを離れ、1704年にパリに住んだ。パリでは細密画家オーギュスタンと親交し、主に肖像画を描いた。1810年、リヨン美術学校の花の絵のクラスの教授となる。しかし、1823年にレヴォワル一派の圧力を受け、辞職。その後リヨンで隠棲しながら制作を続けた。1822年以降、リヨンのサロンにも幾度か出品している。
　花の絵の画家として優れた作品を残すと共に、果物などの静物画や細密描写の動物画を描いている。
　
ティエリア（オーギュスタン＝アレクサンドル　Thierriat, Augustin-Alexandre　1789 リヨン - 1870 リヨン）
　花の絵の代表者の一人。初めリヨンの画家グロニャールと彫刻家シナールに師事し、1808-16年リヨン美術学校に学んだ。そこでレヴォワルの弟子となり、その影響で古代・中世の美術に関心を傾けた。1817年にパリにサロンに初出品。この頃は、他のレヴォワルの弟子たちと同様にド･ベル伯爵の庇護を受け、主に風俗画を描いた。だが、1820年代より花の絵も発表するようになる。
　1821年、リヨンの芸術友の会の第一回展に出品。同年以降、リヨンのサロンにも度々出品している。1823年にはベルジョンに代わってリヨン美術学校の花のクラスの教授となり、1854年までこれを勤めた。1831年より没年までリヨン美術館長でもあった。
　花の絵は少ない。一方、風俗画、肖像画、風景画も描き、さらにエッチングやリトグラフの版画も制作している。
　
サン＝ジャン（シモン　Saint-Jean, Simon　1808 リヨン - 1860 リヨン近郊エキュリ）
　花の絵の代表者。リヨンの花の画家ルパージュに師事。1823年リヨン美術学校に入学し、絵のクラスでレヴォワルに学び、花の絵のクラスでティエリアに師事。その後、一時期教会装飾の図案制作の仕事に就いている。1827年リヨンのサロンに初出品。この頃、やがてリヨンの芸術友の会の有力会員となるモリエールを知る。1834年パリのサロンに初出品。以後パリのサロンには度々出品するが、中でも1838年と1843年に好評を博した。その後、文芸擁護者で画商のシピオン・ド・コルヴィザールの庇護を受けて、ブリュッセルなどヨーロッパ各地で成功を収めた。1851年のロンドン万国博覧会、1855年のパリ万国博覧会にも出品。
　リヨンでは1836年から45年の間アトリエを開いて多くの弟子を指導し、リヨンのサロンには1836年以降59年まで毎回出品を続けた。サン=ジャンはリヨンの花の画家の中で最も成功したが、今日知られる作品は少ない。代表作に聖像に花を供えた奉納画がある。43年以降パリから多くの注文受けた時期には、宗教的主題を持たない豪華な作品を描いたが、50年代に入ると再び宗教的な花の絵を制作した。
　
レニエ（ジャン＝マリ　Reignier, Jean-Marie　1815 リヨン - 1886 リヨン）
　花の絵の代表者の一人。1832年リヨン美術学校に入学し、花の絵のクラスでティエリアに学ぶ。恐らくベルジョンとサン=ジャンにも師事。絹織物のデザイナーとして働きながら花の絵を制作。1839年リヨンのサロンに初出品。以後リヨンのサロンには83年まで毎回出品。そして42年以降はパリのサロンにも度々出品。50年代中頃から60年代中頃にかけて最も成功を収め、55年と67年のパリ万国博覧会に出品。
　リヨンでは40年代より芸術友の会の支持を得た。また45年にアトリエを開き、54-84年、ティエリアの支持を受けてリヨン美術学校で花の絵のクラスの教授を勤めた。
　彼独自の花の絵は、著名人や聖母の彫像に鼻を捧げた様を描いたもの。なお、絹織物のための装飾図案も多数制作した。
　
ライス（ジャン=ピエール　Rays, Jean-Pierre　1825 サン＝バルテルミ＝レストラ - 1887 リヨン）
　花の絵の画家。1841年頃サン=ジャンの召使になり、やがてその弟子となる。サン=ジャンは水彩画のみ教えた。しかし、1848年の二月革命に際してサン=ジャンが一時スイスに逃れ、アトリエをライスに任せた折に、油彩画を身につけたと言われる。52年のパリのサロンに初出品。55年のパリ万国博覧会で水彩画により評価された。60年にサン=ジャンが没して後、その後継者として次第に支持者を増やす。７４年パリの芸術友の会の展覧会に出品。パリの他では、リヨンのサロンは勿論、デジョンのサロンにも出品、さらに国外ではロンドン、ジュネーヴで個展を開いている。
　サン=ジャンと同様、聖母像や十字架などの宗教的対象に花をあしらった作品も多く制作した。一方、彼の花の絵は、師のそれよりも自然の花の姿に近い点が評価された。
　
ペラション（アンドレ＝ブノワ　Perrachon, Andre-Benoit　1828 リヨン - 1909 リヨン）
　花の絵の画家。1844年リヨン美術学校に入学し、しかし、やがて同美術学校を退学し、リヨンの花の画家ルパージュに師事。47年にパリに行き、そこでリヨン出身の花の画家シャバル＝デュシュルジェに学ぶ。53年以来リヨンに居住。織物のデザイナーとして働きながら、花の絵を制作。52年以降はリヨンのサロンにほぼ毎回出品している。パリのサロンには50年以降しばしば出品し、67年のパリ万国博覧会にも出品。
　70年以降はアトリエに多くの弟子を集めた。88年リヨンの芸術友の会を継承する＜リヨン美術協会＞の創立に参加。晩年にはラヴィエとヴェルネの擁護者でもあった。
　主にオランダ絵画を模範としていた。花の絵は、初め細密描写を特徴としていたが、次第に色と光の全体的効果を重視したものとなる。特に好んだモチーフに薔薇と鳥の巣がある。
　
カステクス＝デグランジュ（アドルフ＝ルイ　Castex-Degrange, Adolphe-Louis　1840 マルセイユ - 1918 リヨン）
　花の絵の画家。1853年リヨン美術学校に入学し、花の絵のクラスでレニエに学ぶ。その後、56年より62年頃まで織物の装飾図案の仕事に就いた。58年リヨンのサロンに初出品。70年頃にリヨンで静物画と花の絵によって評価が高まる。74年にパリのサロンに初出品。そして、70年代の中頃にパリに移る。パリでは、花の絵を数多く描くと共に、室内装飾や陶磁器の絵付けも手がけた。
　84年にリヨン美術学校の花のクラスの教授となり、没年まで勤める。一方、80年代から90年代にかけて、アヴィニョン、サン＝テティエンヌ、ディジョンなどの展覧会にも精力的に参加した。89年にはパリ万国博覧会に出品。
　花の絵は、ペラションの優雅な画風に比べて、色鮮やかさと活気を特徴とする。晩年は花のある情景に関心を傾けた。

　(2) リヨン派

1) ＜魂の画家たち＞…理想主義的神秘主義
　
オルセル（アンドレ・ジャック・ヴィクトル　Orsel, Andre Jacques Victor　1795 ウラン - 1850 パリ）
　リヨンにおける革命の争乱の直後、リヨンの卸業者の家系に生まれる。フリーメーソンの支部長であり、リヨンの町で力を持っていた兄アンドレレ＝ジャックと反革命派の司祭ラコンブに育てられた。1810年リヨン美術学校に入学、同級生にボンヌフォンがいた。
　1814年レヴォワルのクラスで学び、ナポレオンに百日天下（1815)の間、美術学校で師の代理を務めた。17年の末にパリのゲランの門下に入る。22年ゲランについてローマに赴き、ナザレ派の画家たちに遭遇。また考古学者のノルマンやシャンポリオンにも出会っている。33年兄の支援を受けて、リヨンのコレラ奉納画の注文を獲得。またパリのサロンでの『善と悪』の成功により、ノートルダム・ド・ロレット教会装飾の仕事を依頼される。この装飾に17年を費やし、多くのリヨン人画家を画工として使った。カトリシズムを基盤とするオルセルの理想主義絵画には、しかしフリーメーソンの影響も認められ、正当なカトリックの教義に鑑みた宗教画とは言い難く、その芸術の性格を一言で表現するには難しいものとなっている。
　
フランドラン（ルネ＝オーギュスト　Flandrin, Rene-Auguste　1804 リヨン - 1842 リヨン）
　38歳で亡くなったため三兄弟の中では最も無名な画家。17年リヨン美術学校に入学、グロニャール、リシャールに師事。卒業後は石版画に熱中し、ロマンティックな挿絵を制作していた。33年、先にパリに出ていた二人の弟の勧めでアングル門下に入り絵画に転向。33年と34年に歴史的風景画の部門でローマ賞に挑戦するが失敗し、リヨンに帰って肖像画家として生計を立てる。38年、その頃ローマに合流していた二人の弟と彼らの師アングルの誘いを受けて短期間イタリアに滞在。リヨンに戻ってからイポリートの協力者となるラモトの助力を得て自分の工房を構える。唯一となる歴史画を制作しながら、医者、音楽家から高位の聖職者まで顧客層を広げて、アングル派の肖像画家として堅固なキャリアを築き始めた矢先に、42年の夏リヨンで急死した。
　
ギシャール（ジョゼフ　Guichard, Joseph　1806 リヨン - 1880 リヨン）
　19世紀リヨンの絵画においてロマン主義傾向の導入などの点で重要な位置を占める。ジャンモとは対照的な明確なリベラリスト。
　1819年リヨン美術学校に入学し、レイとレヴォワルに学ぶ。美術学校では、入学以前から友人であったシュナヴァールと共に学ぶ。その後、リヨンの彫刻家ルジャンドル＝エラルのアトリエでフランドル兄弟と知り合う。27年パリの国立美術学校に入学しアングルの弟子となる。その傍らドラクロワのアトリエにも通った。31年パリのサロンに出品。33年のサロンで注目された。33-35年イタリアに留学しコレッジョの作品などを模写。留学以前は主に肖像画を描いていたが、パリ帰還後は教会や劇場の装飾画を幾つも手がけた。一方で、パリのサロンとリヨンの芸術友の会の展覧会にも精力的に出品。古典主義とロマン主義の折衷を特徴とする。パリでブラックモン、ファンタン＝ラトゥール、ベルト・モリゾを教えた。
　62年リヨン美術学校の絵画のクラスの教授となり、70年まで勤めた。美術批評を通じて風景画家のヴェルネ、ラヴィエを評価した。
　
フランドラン（イポリート　Flandrin, Hippolyte　1809 リヨン - 1864 ローマ）
　19世紀フランスにおける宗教建築の装飾画家の筆頭。世紀前半のカトリック復興運動の使命感を持った画家。
　貧しい年金生活者（アマチュアの画家でもあった）の次男として生まれる。1827年弟のポールと一緒にリヨン美術学校に入り、レヴォワルのクラスに入るが、翌年ポールとパリに出て、29年からアングルに師事、アングル門下の優等生となり、優れた新古典主義画家となる。当時、教会装飾のプロジェクトを独占していたのがアングル派だった。フランドランは32年ギリシア神話に題材を求めた歴史画でローマ賞を獲得。33年から38年にかけてイタリアに滞在。ローマから送った大画面の歴史画や宗教画がパリのサロンで成功、壁画家として嘱望される。ポールと一緒にイタリア各地を旅行してまわり、ジョットやロレンツェッティ、ラファエロといった古典画家たちの作品から多くを学ぶ。38年にパリに帰り着々と名声を高めていった。41年レジオン・ドヌール５等勲章、53年４等勲章、同年フランス学士院会員、57年パリの国立美術学校教授。生涯脆い体質に悩まされていたが、ポールやラモト、ポンセといった同郷の先輩たちの助けを借りながらとはいえ、彼が成し遂げた装飾の量と質は驚くべきものがある。代表作はパリのサン＝ジェルマン＝デ＝プレ教会の装飾。壁画家としての活動の傍らで、アングルの硬質さを抜いてより深い色調を付与した肖像画を描く画家として、特に第二帝政の社交界でもてはやされた。63年健康の回復のためイタリアに向かい、翌年三月ローマで没した。なお。息子ポール＝イポリートも宗教画家となった。
　
フランドラン（ジャン＝ポール　Flandrin, Jean-Poul　1811 リヨン - 1902 パリ）
　幼時から兄イポリートと一緒に育てられ、ほとんど常に行動を共にし、高名な兄の忠実な協力者であった。彼自身が専門に選んだのは歴史的風景画で、32年この部門でローマ賞に挑むが失敗。34年イポリートのあとを追ってローマに赴く。38年兄と共にパリに帰り、兄とアトリエを共有して、風景画を描きながら兄の膨大な装飾仕事の助手を務める。兄の死後、理想化された風景を描き続けるが、ローマ近郊の山岳地帯の風景は認めこそすれ、50年代には歴史的風景画は既に廃れており、時代と共に忘れられていく運命にあった。また、まぎれもなくアングルの弟子であるうことを物語る、優れた人物素描を多量残している。
　
シュナヴァール（ポール＝ジョゼフ　Chenavard, Paul-Joseph　1807 リヨン - 1895 パリ）
　パリやイタリアで哲学と絵画を学んだリヨン派トリオの一人。19世紀の歴史主義、バランシュの社会進化論、フリーメーソンのシンボリズムが絡み合った百科全書的な思想の持ち主であった。
　リヨンの小さな梳毛工場主の末子として生まれる。兄弟の中でただ一人高等教育を受け、共和思想と無神論、そして18世紀以来全欧的な広がりを見せていたフリーメーソンに接触。23年リヨン美術学校に入学レヴォワルに師事、さらに24年秋パリに出てエルサン、次いでアングルの門下に入る。まもなくドラクロワに出会い、その芸術の影響は受けないが、この貴族的なロマン主義画家の人物に深く傾倒するようになる。同じ頃、ジェラール・ラブリュニイ（後のジェラール・ド・ネルヴァル）と交友を結び、ドワイエンネ袋小路の文学的ボヘミヤンの一団＜青年フランス派＞に出入りする。またこの頃、ソルボンヌでのクーザンやギゾーの講義に通い、他方で諸々の宗教の歴史書を通読し、同郷の歴史家エドガー・キネの影響もあって、ドイツの古代学者クロイツアーの歴史学に接近する。まもなく当時広まりつつあったシンクレティズムに傾倒し、この諸教混淆主義に、イタリア滞在中に知り合ったヘーゲルの目的論的歴史体系とナザレ派の教育学が混入された。さらに決定的な要因としてリヨン出身の神秘思想家バランシュの未完の大著『社会再生（輪廻）論』に接し、パンテオン装飾の理論的基礎を作り上げた。バランシュは、コンドルセの社会の前進という思想にインスピレーションを受けカトリシスムと啓蒙主義の進歩思想を試みていた。シュナヴァールは48年の第二共和制の内閣と親しく、特にルドリュ＝ロランのおかげで、パンテオンの装飾は実現するかに見えたが、第二帝政の到来で結局果たせず、63年からはほとんどイタリアで時を過ごした。65年からローマで大作を制作。第二帝政の崩壊後はしばしばリヨンに帰り、特にギシャールを中心とする小さな集まりによく出入りする。最晩年に盲目となり、パリの住居で隠棲する。死後その遺体は遺言によってリヨンに戻され、ほとんど市葬に匹敵する盛大な葬儀が営まれた。また遺産はリヨン市に寄贈された。
　
フレネ（ジャン＝バティスト　Frenet, Jean-Baptiste　1814 リヨン - 1889 シャルリ）
　フリーメーソンの支部会員の父を持ち、1827年リヨン美術学校に入学し、ボンヌフォンに師事。33年にジャンモと同じ時期にパリに出、アングル門下に入る。ジャンモ、ラキュリアと共に、33年に創設された強力な慈善団体聖ヴァンサン・ド・ポール会議で活動すると共に、ラムネーの説教に夢中になる。35年、ラヴェルニュ、ジャンモと一緒にローマに赴き、ヴィラ・メディチのアングルを中心とする集まりに加わると同時に、ラファエルを自由な解釈で模写した。47年にシャルリに定住し、リヨンのステンドグラス職人に協力。1851年から53年にかけて大司祭の依頼で最後の仕事を制作。
　
ジャンモ（ルイ　Janmot, Louis　1814 リヨン - 1892 リヨン）
　リヨンの典型的な中流家庭に生まれる。ジャンモ一家の隣人にフランソワーズ・ペロトンがいた。ペロトンは、1822年に「信仰普及の会」を結成した人物で、海外での伝道事業を支援しアメリカやオセアニアでも布教活動を行った。ジャンモは、リヨンの王立中等学校に学び、画家フレデリク・セルヴァンや当時リヨン大学で教えていたオザナンと交友を結ぶ。オザナンは、後にパリ大学比較文学教授となり、慈善団体＜聖ヴァンサン・ド・ホール会議（ヴィンセンシオ会）＞を発足させ、若いカトリック教徒たちの指導者となる。ジャンモは、31年夏、哲学課程に進む直前で学校をやめるが、＜キリスト者のソクラテス＞と呼ばれたノワロ神父の新プラトン主義に基づく哲学と美学の講義には通う。パリに出て＜リヨン共和派＞のサークルに通い、聖ヴァンサン・ド・ポール会議に参加する傍ら、ラコルデールの説教を聴く。社会主義思想に辿り着き背教の道歩むラムネーを崇拝。アングル門下に入り、35年ローマのフランス・アカデミーの校長となった師アングルの後を追ってローマに赴き、フランドラン兄弟に同地で合流。36年リヨンに帰り、60年までリヨンで活動。55年ドラクロワの尽力で万国博に＜魂の詩＞第一部16点を展示。リヨン美術学校教授となるが、パリの教会装飾の誘惑に負けてパリに出る。彼の保護者たちの死によって仕事から追われ、70年普仏戦争の最中に７番目の子を産んで妻が死亡。これに打撃を受けたジャンモはアルジェに向かいしこで数ヶ月を過ごす。翌年パリに戻り、シャルル・ブラン、シュナヴァール、オザナン未亡人たちの友情によって立ち直り、78年教会の装飾を担当。この仕事を終えてトゥーロンに移住し、ラ・シオタのボレルやボッサンと交友しながら風景画を描く。そして＜魂の詩＞を完成。80年にリヨンに帰るが、同世代の画家たちの大半は既に世になく、彼の芸術は時代遅れと見なされ、公的な注文から締め出されてしまう。この頃、ラヴィエと出会い好意を抱く。81年『魂の詩』が刊行される。85年かつての教え子と再婚。87年からしばしば北アフリカに旅行。92年に肺炎で死亡。晩年は霊感に満ちた木炭画を制作する傍ら、著作に手を染めていた。
　
ラヴェルニュ（クラウディウス　Lavergne, Claudius　1815 リヨン - 1887 パリ）
　オルセルのそれと通ずる紋章学的象徴体系を好んだ画家。31年から34年までリヨン美術学校で学び、ボンヌフォンに師事。34年パリに向かい、アングル門下に入ると共に、ブラク・ド・ラ・ペリエールが主宰していた＜リヨン人会＞に加わる。35年ジャンモたちとローマに向い、アングルの下で制作。翌年リヨンに戻るがまもなくパリに定住し、オルセルの下で弟子として働く。39年国家からの注文で制作。当時ローマのドミニコ派修道院で修練士だったラコルデールと文通を開始。41年イタリアを旅行し、アングルを模写。43年パリの聖ヨハネ修道会の会長となり、またリヨンの＜カトリック学会＞の会委員となる。45年のサロンで「聖心」が金賞を獲得。国家からの宗教画の注文を次々にこなしていくが、52年にステンドグラス画家へと転身していく。56年にリュ・ダサに工房を構え、批評家としても成す。62年にリヨンに帰り、バルブ島（ソーヌ河の中洲）に工房を持って、６年間故郷でガラス絵の仕事をしている。
　
ティール（ガブリエル　Tyr, Gabriel　1817 サン＝ポル＝ド＝モン - 1868 サン＝テティエンヌ）
　ロワール河上流のサン＝ポル＝ド＝モンの石工の息子として生まれる。1833年リヨン美術学校に入り、ジャコマン、ボンヌフォンに師事。37年パリに行き、オルセルの下で画工として働く。40年パリの国立美術学校に入学、４３年からパリのサロンに出品。この頃フォレ人の若い彫刻家ギョーム・ボネを知り、交友を結ぶ。49年にテオフィル・ゴーチィエが好意的な評を寄せる。50年のマルセルの死後、ペランに雇われてオルセルのコレラ奉納画を完成させる。55年万国博覧会に出品。リヨンとサン＝テティエンヌで多くの肖像画を制作。サン＝テティエンヌの聖ルイ教会のステンドグラス制作に協力。他所で壁画も制作。
　
ボレル（ポール　Borel, Paul　1828 ラ・ミュラティエール - 1913 リヨン）
　両親が早く亡くなったため、兄レオンと共に祖母の手で育てられ、次いでドミニコ派の教父たちによって創設されたウランの寄宿学校で教育を受ける。ラキュリア神父がこの学校で教えており、ボロルはラムネーの「美的神学」の理念を彼によって鼓吹された。この学校はボレルの精神形成に決定的な役割を果たしている。50年頃短期間ジャンモに師事。ボッサンとも出会う。48年法律家で音楽家の兄レオンが没し、58年には若い妻アデールが亡くなっている。この二つの死がもたらした苦悶は、ボレルの精神をますます信仰に向けさせ、またウランの学校に関心の全てを注ぐ。資材を投げ打って母校に礼拝堂を寄贈し、建築をボッサンに頼み、自らは壁画装飾を担当してこれに20年を費やすことになる。
　
ルー（マルセル　Roux, Marcel　1878 ブスネー - シャルトル）
　ローヌ県ブスネーに生まれる。俳優を父に持ち、父の一座についてフランス各地、またヨーロッパ中を転々とした。17歳の頃にニースの装飾美術学校に入り、96年から97年までリヨン美術学校でモリゾに師事。またレンブラントの版画を見て版画家を志す。同じ頃ボレルに出会い影響を受ける。1901年から６枚から10枚組の版画集を発表。1907年からパリのサロンに出品。国家からの注文も受ける。1914年、第一次大戦に従軍。20年頃からシャルトル大聖堂のステンドグラスのための下絵を制作。大聖堂を視界に入れたまま没する。

2) 象徴主義

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ（ピエール　Puvis de Chavannes　1824 リヨン - 1898 パリ）
　
セオン（アレクサンドル　Seon, Alexandre　1855 シャゼル＝シュル＝リヨン - 1917 パリ）
　世紀末の退廃と唯美主義のあまやかな香りと危険な魅力を放つ画家。
　リヨン美術学校、パリ国立美術学校に学び、81年頃からシャヴァンヌの下で働き。10年近くの間シャヴァンヌの最も忠実な助手として過ごす。92年ペラダンとラ・ロシュフコー伯爵と一緒に薔薇十字の美術展覧会を創設。オスベールやスーラと親しく、色彩と線のシンボリズムの定義に夢中になる。パリの国立美術学校の素描教授を努める傍ら、ペラダンの著書の多くに挿絵を入れた。
　
ブリュニエ（ジョゼフ＝オーギュスト　Brunier, Joseph-Auguste　1860 シャンベリー - リヨン）
　神秘主義の傾向を秘めた肖像画家。リヨンの東方サヴォワ地方のシャンベリーに生まれる。77年リヨン美術学校に入学し、絵画のクラスでデュマに師事。同校でパリ賞を受賞し、80年代中頃にパリに出る。パリでは、アカデミズムに属するカバネル・ルフェーブルらに師事。80年代の末にリヨンのサロンに、90年代前後にパリのサロンに出品し、両サロンで褒章を受けた。しかし、92年以降はいずれのサロンにも出品していない。91年に結婚してリヨンに定住したが、結婚の立会人はジャンモであった。
　礼拝堂の祭壇画など宗教画も幾つか制作した。中世イタリア絵画やダ・ヴィンチの複製写真を多数所有。肖像画家として知られるが、妻や子どもなどの情景を多数描いた。
　
コンベ＝デコンブ（ピエール　Combet-Descombes, Pierre　1885 リヨン - リヨン）
　19世紀リヨンの象徴主義の、20世紀における継承者。1902年リヨン美術学校に入学し、装飾芸術のクラスで学ぶ。1905-14年リヨン美術協会のサロンに1907-24年にはリヨンのサロン・ドートンヌに出品。第一次大戦中は看護兵としてギリシアのテサロニケに滞在。20年リヨンの前衛グループ＜ジニアール＞に参加し、25年以降それを継承するサロン・デュ・シュド・エストに出品。また20年にはパリのサロン・ドートンヌに、25年にはパリの装飾芸術展に出品。公共建築の装飾画や個人のための装飾パネルも制作し、30年代には舞台装飾にも力を注いだ。55年アトリエを焼失。66年にリヨンで回顧展が開かれた直後に亡くなる。
　絵画はペシミズムと暗示的な表現を特徴とし、ナビ派やドイツ表現主義に通じるものがある。

(3) リヨンの風景画派（モレステル画派）

　1) クレミューの画派
　
ラヴィエ（フランソワ＝オーギュスト　Ravier, Francois-Auguste　1814 リヨン - 1895 モレステル）
　リヨン出身の風景画家の代表者。
　1832年法律の勉強のためにパリに出たが、まもなく絵画に転向し、風景画を志した。リヨンで風景画家フォンヴィルに師事し、パリで風景画家コワニエとリヨン人の風景画家アリニイにも師事した。39年オーヴェルニュ地方を訪れた折に、ロワイヤでコローに出会い影響を受ける。40年コローの勧めによりローマに旅行。そしてターナーの水彩画から決定的な影響を受ける。
　1853年リヨンの東方に位置するドーフィネ地方のクレミューに定住。コロー、ドービニー、ディアズがそこを訪れている。67年にモレステルに移った。
　透明な光に満ちた風景画で、特にモレステル時代には太陽の光の効果に関心を傾けた。油彩の他、水彩もたびたび用いた。

トレヴー（ジョセフ　1831 リヨン -1909 リヨン）
　風景画家。1854年頃よりジャンモのアトリエに通い、生涯を通じてボレルと親しく交わった。モレステルの近郊に住みアピアンやアルマン、フォンタネージらとも親交を深める。64年パリのサロンにデビュー。後、イタリアへ渡った。
　
カラン（ルイ＝イレール　Carrand, Louis-Hilaire　1821 リヨン - 1899 リヨン）
　19世紀リヨンの代表的な風景画家の一人。
　初めリヨンの風景画家フォンヴィルに２年間師事し、その後ぱりで風景画家フランセに師事。47年にイタリアに旅行。49年にリヨンに戻り、ヴェルネの家の近くに住んだ。ドーフィネ地方を訪れてクレミューやオプトヴォズの風景を描き、この地でラヴィエ、ドービニーと知り合う。リヨンの町やその近郊も描いたが、モチーフを求めて南仏の地中海岸や北アフリカのアルジェにも旅行した。しかし、65年に資金難に陥ってからは、生活費を稼ぎながら制作しなければならなかった。
　シュヴルールの色彩理論に触発されて、後の印象派の先取りする筆触分割の手法を身につけ、特に風景に浸透する大気の表現を探求した。46年から51年の間にリヨンのサロンに、59年にパリのサロンに出品。
　2) モレステルの画派

ラヴィエ（前述）
　
ヴェルネ（フランソワ　Vernay, Francois　1821 リヨン - 1896 リヨン）
　19世紀後半のリヨンで花の絵と風景画の二つのジャンルを手がけた。リヨン美術学校に学び、1840-41年花の絵のクラスでティエリアに師事。その後、織物の装飾図案の仕事に携わる。48年に仕事を求めてミラノに行ったが、50年代初めにリヨンに戻って以来、絵画に専心。50年代にリヨンのサロンに数回出品。60年頃にラヴィエと知り合い、その頃よりモレステルを訪れる。65年パリのサロンに初出品。以後そのサロンに少なくとも３回出品。80年代以降の晩年には油彩画が少なくなるが、素描、水彩画、彩色スケッチを数多く制作した。
　花の絵、静物画、風景画において独自の力強い表現を開拓した。しかし、その新しさが認められたのは没後のことであった。
　
アピアン（アドルフ　Appian, Adolph　1818 リヨン - 1898 リヨン）
　19世紀リヨンの代表的な風景画家の一人。
　1833年リヨン美術学校に入学し、グロボンとティエリアに学ぶ。その後、リヨンとサン＝テティエンヌで織物のデザイナーとして働く。その傍ら主に素描を描き、50年代初めに木炭画を始めた。52年ドーフィネ地方に制作に来たコロー、ドービニーに出会い、以後これら二人の感化を受けながら木炭と油彩により風景画に専念する。50年代中頃にフォンテーヌブローを訪れ、コロー、ドービニーと共に制作。70年代には南仏の地中海にしばしば滞在して、明るく輝く色彩の海景画を描くようになる。75年にはイタリアを旅行。その一方で、70年頃より晩年まで、リヨンの東方ビュジェイ地方の風景を描き続けた。47年よりリヨンのサロンに、53年よりパリのサロンに度々出品。

ビドー（アンリ　1839-1898 ロシヨン）
　ローマ、パリに住み、初め彫刻を手掛けるが、後に風景や田舎の生活を描いた。68年からロシヨンに定住、同地で没。リヨンで作品を発表した。72年パリのサロンにデビュー。

　3) その他の兼風景画家
　
ヴォロン（アントワーヌ　Vollon, Antoine　1833 リヨン - 1900 パリ）
　リヨンの画家の中で、19世紀後半に風景画の他に静物画にも執着した点で特異な存在。
　金属彫刻師の修業に就いた後、1851年にリヨン美術学校に入学し、そこで版画を学ぶ。さらにリヨンの版画家シャラスに師事。50年代末にはリヨンのサロンに風景画を出品。その頃パリに移る。パリではH.フランドランに会い、リボーの弟子になる。64年パリのサロンに初出品。以後サロンに度々、食物や金属器を描いた静物画を出品し、テオフィル・ゴーティエらに評価され、パリで静物画家として名を高める。
　リベラやフランス・ハルスの大作を模写し、両者から強い影響を受ける。一方、パリでコロー、ドービニーと知り合い、ブーダンとも交友があり、さらに各地の風景写真を集めていた。そして自身、海や川辺の風景を数多く描いている。
　
セーニュマルタン（ジャン　Seignemartin, Jean　1848 リヨン - 1875 アルジェ）
　ギシャールやヴェルネと共に19世紀リヨンの代表的なカラリストの一人。
　1860年リヨン美術学校に入学し、初等クラスでジュノに、絵画のクラスでギシャールに学ぶ。ギシャールを通じてドラクロワの芸術を知り、ロマン主義的な精神と色彩とを重視する姿勢が決定された。バイロンなどの文学に親しみながら、ヴェロネーゼやルーベンスの作品を模写。また、友人のヴェルネと一時期アトリエを共有していた。60年代中頃よりリヨンの芸術友の会の展覧会に出品するようになる。
　1970年普仏戦争に従軍し、肺結核を患い、以後病と闘いながら制作を続けた。74年医師の勧めでアルジェに移り、この地で印象派に近い光の表現を探求した。短い生涯のうちに風景画、静物画、人物画の各ジャンルを手がけている。

　 　　まえがき

　以上の記述は下記書物を参考にしている。

　　『リヨン派画集』　トレヴィル：リブロポート　96.4刊　96.8.31
　　『１９世紀リヨンの栄光』　岐阜県美術館　1990　07.10.2

　プロヴァンス派の記述を終えたら、予定のキュビスムを更に途中にして、先にリヨン派をまとめたくなった。
　リヨン派を最初に知ったのは発売して間もない『リヨン派画集』(トレヴィル発売：リブロポート)によってである。それまでリヨン派という言葉さえ知らなかった。その『リヨン派画集』でシュナヴァールとジャンモに多大な興味を持った。なにせ、その基盤に新プラトン主義があり、詩的文学的な作品群である。そして事実、二人とも哲学の受講徒だからいうまでもない。実は最初そのような経歴等も知らず、作品そのものの深さと表現力に圧倒されてしまっていた。すぐ先入観なしにナザレ派とラファエル前派を連想したが、なぜかしらナザレ派より時代が古い流派だと勘違いしてしまった。
　この度、リヨン派を記述するに当たって他に図録がないかネットで調べ、1990年の岐阜県立美術館開催の図録『１９世紀リヨンの栄光』の存在を知った。大変勉強になった。ピュヴィス・ド・シャヴァンヌもリヨン派なのだ。ヴェルネなど幾人かは名を目にしていたと思うが、定かでない。とにかく、リヨン派の画家たちが多数紹介されている。しかも、その中に風景画派も含まれているのには狂喜の思いだった。モレステル画派。初めて知った。（2007.10.9）

　 　　あとがき

　リヨン派が少し理解できたら、今度は相対的に愚生の頭の中でナザレ派について知識が薄くなってしまった。キュビスムはまだそっちのけにして、次はナザレ派にしよう。もう実はナザレ派の記述が始まっており、気になるフサロやコタボらリヨン派の新具象は後回しにして。（2007.10.9）